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「わしは、徳川殿を手厚く持てなすようにと、命じたはずだ」
「上様、お言葉ですが、そのように致しております」
「貴様、わしに楯突くのか!徳川殿の接待役の任は解く、羽柴秀吉を援軍せよ!」
「羽柴殿の援軍!?上様、それはあまりにもご無体な仕打ち。誠心誠意、徳川殿をもてなしておるではないか!」
主君に楯突く光秀を、蘭丸が羽交い締めにしする。畳に額を擦り付けた光秀は、信長を睨みつけた。
光秀にとって秀吉は、織田一門でありながら、帰蝶とのことを信長の耳に入れた張本人であり、いずれは天下人を目論む敵対関係でもある。
光秀の瞳の奥にメラメラと怒りの炎が燃え上がる。
「蘭丸、明智殿に無礼であるぞ。手を放さぬか」
あたしは蘭丸から光秀を解き放ち、信長に頭を下げ光秀を部屋から連れ出した。光秀は憤慨していたが徐々に冷静さを取り戻し、あたしに詫びた。
「平手殿、お見苦しいところをお見せし、申し訳ござりませぬ」
「明智殿、ご不満はございましょうが、上様は中国攻め(毛利征伐)が思うようにいかず、焦っておられるのです。明智殿のお力が必要であると判断され、心を鬼にし、羽柴軍の援軍をせよと命じられたのです」
「平手殿、そなたは我らの気持ちをくみ取り
「明智殿……」
「上様のお怒りはごもっともでございます。正室であらせられる於濃の方様のことを、心の中でお慕いしているのですから。されど……羽柴殿の援軍だけは……」
帰蝶への想いを口にした光秀に、あたしの胸中は複雑だった。
「明智殿、どうかこの俺に免じて、中国攻めに向かって下さい。於濃の方様も上様との
光秀の赤く燃える瞳から……
怒りの色がスーッと消えていく。
気持ちを落ち着けるかのように小さく深呼吸し、口元を緩めた。
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