SHOCK 13

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 ――“甲州征伐による諏訪法華寺の祝賀の席で、参加諸将に対する論功行賞が発表された。”


 信長は“徳川家康とくがわいえやすに駿河国を。滝川一益たきがわかずますに上野国を与えた”。その他の参加諸将にも、功績を挙げた者には続々と領地を与えた。


 ――そして……


 “明智光秀所領の丹波と近江を没収し、出雲と石見を与えた。”


 出雲と石見はいまだに毛利領にある。信長は光秀の所領を没収しただけではなく、皆の前で光秀のプライドを粉砕した。


 歓喜に沸く祝賀の席で、光秀は主君である信長にこう述べた。


「上様におかれましては、ここまでになられたことをお慶び申し上げます。これで我らも骨を折った甲斐がございました。ですが、所領没収とはあまりにも理不尽ではござりませぬか」


 これまで信長に忠義を尽くし、功績を挙げてきたという自信が、光秀を暴挙に駆り立てる。


 だがその発言により、その場は一瞬にして凍りつき、信長の怒りの導火線に火を点けることとなった。


「明智光秀よ。貴様に何の功があったと申すのだ!」


 所領を没収されたことの不満を口にし、甲州征伐は己の功績だと言わんばかりの発言に、信長の怒りはついに爆発する。信長は“衆人の前で光秀を欄干に打ち据え”、容赦なく暴行を加えた。


 「上様!お止め下さい!上様!」


 あたしと蘭丸は必死で信長を止める。

 だが信長の怒りはそれだけでは治まらなかった。


「貴様がこのわしに何をしたか、胸に手を当てよく考えよ」


 額から血を流し愕然とする光秀に、信長は冷たく言い放った。この時、信長に対する光秀の忠義が、憎しみへと色を変えた。



 ――同年、5月。

 信長は光秀に新たな任務を与えた。


「徳川家康殿の接待役を命ずる」


「……接待役でございますか?」


「駿河国加増の礼と甲州征伐の祝勝会に、安土城に参られることとなっている。手厚く持てなすように。よいな」


 光秀は信長の信頼回復のために、徳川家康を誠心誠意持てなしたが、信長は不満を露わにした。


 もはや、光秀がどんなに尽力し功績をあげようと、信長が正当に評価することはなかった。


 あたしは光秀の謀反を回避するために、信長に助言したが、信長は「女が政治に口を挟むな」と、耳を傾けなかった。


「上様、羽柴秀吉はしばひでよし殿より使者が参っております」


「秀吉からの使者とな」


 “備中高松城攻め(中国攻め)を行っていた秀吉の使者から、援軍の依頼”を受けた信長は、徳川家康の接待役をしていた光秀を部屋に呼びつけた。

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