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「そもそも明智城から落ち延びた際に、於濃の方様をすぐに清州城に帰されず庇護していたことが、確たる証拠。その時より、いや、もしかしたら輿入れ前より情を通じていたのやもしれませぬな」


「織田軍がこのような時に、下世話なことを広めるとは何事だ!」


「下世話なこととな?ふふふ、平手殿も気をつけなされ。壁に耳あり障子に目ありと申すであろう」


「……っ」


 秀吉は信長とあたしのことを疑っている。


 戦国武将の誰もが天下人になりたくて、敵味方なく、主君を蹴落としたくてウズウズしているのだ。


 一晩で味方が敵に寝返る時代。

 真の重臣など存在しない。


 ――1578年(天正6年)

 “毛利軍と織田軍の攻めぎ合いは続き、織田軍は優位に立つ。”


「毛利水軍の援助を受けれず、石山本願寺と荒木は孤立しておる。容赦なく攻めて攻めて、攻め続けよ!」


 信長の勢いは止まらず、翌年には織田軍と毛利軍の優劣は完全に逆転した。



「上様、祝盃を」


 月を見上げながら、酒を酌み交わす信長は、その時だけは鬼の形相から優しい眼差しへと変わる。


 あたしの肩を抱き寄せ、2人きりで祝盃を上げた。

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