紗紅side

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 上杉軍に勝利した織田軍は優位に立ち、信長はこれを期に直臣を各所に配備する。


 あたしは信長の側に仕え、その指示を家臣達に的確に伝えた。


 明智光秀は信長の下で数々の功績を残し、織田軍にとって重要な地位にあった。


 “丹波一国拝領と同時に総合指揮権を与えられ、地位も上がり所領も240万石へと膨れ上がる。”


 その勢力を面白くないと感じている武将が、信長の配下にも存在していた。戦国の世は、裏切るが常。光秀の出世を妬み、信長によからぬ噂話を吹き込む家臣もいた。


『明智光秀殿は上様に忠義を誓うと見せ掛け、陰で於濃の方様と秘かに情を通じておる』


『明智光秀殿は上様の正室と不義密通をしておる』


『明智光秀殿の出世には、於濃の方様のお口添えあればこそ』


 帰蝶と光秀を愚弄する噂話が、あたしの耳にも入るようになった。


「平手殿は於濃の方様の護衛をされていたとか。その頃より明智光秀殿は於濃の方様と密通しておったとは、まことにございますか?」


「羽柴殿、誰がそのような噂を広めておるのだ」


「これはこれは平手殿。火のないところに煙は立ちませぬ。そうであろう」


 あたしを挑発する秀吉に、怒りが込み上げるが、拳を握り締めグッと我慢する。


 秀吉はそれを楽しむかのように、さらにあたしを煽った。


「於濃の方様と明智殿は縁者でござる。それを利用し成り上がっただけではなく、陰で於濃の方様と情を通じていたとは。明智殿はしたたかな男でございますなぁ」


「羽柴殿、口を慎め!」


 ついにあたしを怒らせ、秀吉はニヤリと口角を引き上げた。








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