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(光秀殿……)
「国主となりここまでやっとこれたのは、上様と於濃の方様のお力添えがあってこそ。感謝しております」
光秀は私に頭を垂れ、いつまでも頭を上げようとしなかった。
私は光秀に歩み寄り、目の前に座り肩に手を置いた。
(どうか、頭を上げて下さい)
「於濃の方様にお目通りするのも、今日で最後にするつもりでございます」
光秀は私の手を握り締める。
光秀の言葉の意味が理解出来ず、私は混乱している。
(光秀殿……?)
光秀の真剣な眼差しに、その言葉が偽りでないと悟り涙が溢れた。
「於濃の方様は上様のご正室。もはや雲の上のお方。於濃の方様の文を読み、そなたがどれだけ上様を想い、どれほど織田家の存続を願っているのか、ひしひしと伝わりました。その想いに応えるために、上様に忠義を誓い邁進して参りました」
光秀は私の手を離し、唇を噛み締めた。
「……安堵せよ。上様に背いたりはしない」
(光秀殿、まことにございますね)
「そなたの顔を見て、しかと伝えたかった。もう文はいらぬ。書かなくてよい」
光秀は誤解している。
謀反を思い留まらせるために書いた手紙を、信長を愛するがゆえに書いた手紙だと勘違いしている。
私の心は……
あなたのもの。
そう伝えたいのに、光秀は私から目を逸らした。
私はあなたを想うあまり、手紙を書き続けたのよ。
私が守りたいのは……
信長でも織田家でもない。
光秀は私を両手で抱き締め、耳元で声を絞り出した。
「帰蝶よ、さらばじゃ」
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