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 光秀は“近畿の各地を転戦しつつ、丹波国の攻略を繰り広げ功績を上げる。”


 「上様がお犬の方様(信長の妹)を細川昭元ほそかわあきもと殿に輿入れさせるとは、ほんに驚きました。一番驚いたのは、細川殿でございましょうな」


(多恵、そのようなことを。良い御縁があったのでしょう)


「光秀殿は丹波一国を与えられ、今や34万石の領主様ですね。ご立派になられ、多恵はほんに嬉しゅうございます」


 多恵はほろほろと涙を溢した。


(多恵、泣かずとも……)


 私は泣いている多恵の背中を擦る。

 ここまでになるのに、どれだけ精進したことか。信長への忠義を思うと、嬉しくて目頭が熱くなる。


 ――逢いたい……。

 光秀殿に逢いたい……。


 廊下で侍女の声がし、俯いていた顔を上げる。


「於濃の方様、明智光秀殿のお成りでございます」


 襖が開くと同時に、私より先に多恵が駆け寄り、頭を垂れた。


「多恵、息災でなによりじゃ」


「光秀殿、数々のご功績、多恵は嬉しゅうございます」


「これもみな、上様のお陰じゃ」


「於濃の方様、見目麗しく息災で何よりでございます」


(光秀殿……)


 突然の再会に、感極まり涙が溢れ言葉が繋がらない。


 私達の関係を薄々勘付いている多恵は、他の侍女を従え部屋を出て行く。


「於濃の方様、上様も信忠殿も息災であられますゆえ、ご安心下さい」


(そうか、安堵致しました)


 泣きながら頷く私に、光秀は優しい笑みを浮かべた。


「泣くでない……。そなたに逢いとうて馬を走らせ参ったのだ。笑ってはくれぬか」


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