信長side

118

 ――安土城を築城し、そこを拠点とする。


 “丹波国の波多野秀治はたのひではるが叛旗を翻し、明智軍を含めた軍勢を大阪に派遣したが、本願寺軍に包囲され窮地に陥る”。明智軍の不甲斐なさに苛立ちを感じ、その報せに痺れを切らす。


「出陣じゃー!」


 わしは若江城に入り、みなの先頭に立ち本願寺軍に攻め入る。敵軍に銃撃され不覚にも負傷したが、それでも馬を走らせ追撃した。


 なにが己をそうさせているのか、何のために己は戦っているのか、刀を振り回し敵陣を追い詰め殺戮を繰り返すが、その答えは未だに見えない。


 苦戦を強いられていた明智軍と合流し、本願寺軍を撃破し、刀を天に振り上げる。


 腕から滴り落ちる赤い血が、刀から流れ落ちる敵軍の血と混ざり合い、己の手を赤く染めた。


「上様!ひとまず傷の手当てを!ここは我らにお任せ下さい!」


 若江城に退去したわしは、銃撃により数日間熱に魘され、床から動くことが出来ず傷が癒えるのを待つ。


 熱に魘されながらも、脳裏に浮かぶのは清洲城に残した紅のことばかり。


 このまま死んでなるものか。

 天下統一を成し遂げず、死んでなるものか。


 紅をこの乱世に残し、死んでなるものか……。


 ――数週間後、危機を脱し、月を見上げ紅のことを想う。わしに生きる気力を与え、命を救ったのは紅だ。


「上様!上様!」と、けたたましい声に、思わず振り返る。


 そこには髪を振り乱し、息を切らした紅の姿があった。形振り構わぬその姿に思わず笑みが漏れる。


「誰かと思えば、どうしたのだ。そのように騒がずとも、わしは生きておるぞ」


 紅は大粒の涙をポロポロ溢し、その場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。


 夢にまで見た……

 い奴よ……。

 

 逢いたかったぞ……。

 

 畳にへたり込み、子供のように泣きじゃくる紅。立ち上がり、ゆっくりと紅に近づく。


「よく参ったな」


「……明智殿から於濃の方様に文が参り、上様がお怪我をされたと……。無我夢中で馬を走らせ参上した次第でございます」


「明智光秀め、余計なことを」


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