117

 ――1575年(天正3年)


「光秀殿は“正親町天皇より惟任これとうの賜姓と従五位下日向守に任官”されたそうございますよ」


 斎藤家より仕える侍女の多恵は情報通で、色々なことをあたしや帰蝶に話した。


「坂本城主となられ、数々の功績を残されたそうにございます」


(そうか。多恵は物知りであるな)


「光秀殿は帰蝶様の従兄弟であらせられます。斎藤道三殿にお仕えしていた頃より存じ上げておりますゆえ、城主となられ嬉しゅうてなりませぬ。これも御殿様のお陰でござりますな」


(そうであるな)


 帰蝶は嬉しそうに笑みを浮かべながら、多恵の話を聞いていた。


 光秀や秀吉、徳川の勢力が徐々に増し、あたしは一抹の不安を感じていた。


「御殿様は“権大納言に任じられ、右近衛大将を権任”することとなったそうですよ。将軍就任式の儀礼挙行されたのちには、いよいよ『上様』となられるのですね。ほんに、喜ばしい」


 多恵の自慢げなお喋りは留まることなく延々と続いた。


 ――その後、信長は“信忠に織田家の家督ならびに、美濃、尾張などの領国を譲った。”


 これで信長が戦いの場から退いてくれる。


 あたしはホッと胸を撫で下ろす。


 だが“信長は家督を譲ったあとも、織田政権の政治に関わり、全軍を総括する立場に変わりは無く、天正4年には琵琶湖湖岸に安土城の築城を開始した。”


 ――戦国の世は、まだ終わりを告げることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る