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――1575年(天正3年)
「光秀殿は“正親町天皇より
斎藤家より仕える侍女の多恵は情報通で、色々なことをあたしや帰蝶に話した。
「坂本城主となられ、数々の功績を残されたそうにございます」
(そうか。多恵は物知りであるな)
「光秀殿は帰蝶様の従兄弟であらせられます。斎藤道三殿にお仕えしていた頃より存じ上げておりますゆえ、城主となられ嬉しゅうてなりませぬ。これも御殿様のお陰でござりますな」
(そうであるな)
帰蝶は嬉しそうに笑みを浮かべながら、多恵の話を聞いていた。
光秀や秀吉、徳川の勢力が徐々に増し、あたしは一抹の不安を感じていた。
「御殿様は“権大納言に任じられ、右近衛大将を権任”することとなったそうですよ。将軍就任式の儀礼挙行されたのちには、いよいよ『上様』となられるのですね。ほんに、喜ばしい」
多恵の自慢げなお喋りは留まることなく延々と続いた。
――その後、信長は“信忠に織田家の家督ならびに、美濃、尾張などの領国を譲った。”
これで信長が戦いの場から退いてくれる。
あたしはホッと胸を撫で下ろす。
だが“信長は家督を譲ったあとも、織田政権の政治に関わり、全軍を総括する立場に変わりは無く、天正4年には琵琶湖湖岸に安土城の築城を開始した。”
――戦国の世は、まだ終わりを告げることはなかった。
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