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 救護所に藤掛永勝ふじかけながかつ羽柴秀吉はしばひでよしが駆けつけ、その場は一気に緊張感に包まれる。


「殿!小谷城はさらに火の海。お市の方様と姫君を救い出さねばお命が……!」


 信長は秀吉に冷たい視線を向けた。


「死にたい者は死なせておけばよい」


「殿!お市の方様は殿の妹君ではありませぬか。3人の姫君は織田の血を引く姫君であらせられますぞ!どうかご慈悲を!」


 秀吉はお市の方と3人姫君を救うべく、必死に命乞いをした。


「紅が、お市とともに清洲城に戻ると言うのなら、お市の命を助けてやってもよい」


 あたしが清洲城に戻ることが、お市の方の命を助ける交換条件……。


 それならば……

 致し方ない。


「わかりました。お市の方様と姫君とともに、必ずや清洲城に戻ります。殿!一刻も早い決断を!」


「皆の者!浅井長政、浅井久政の首を打ち取るのだ!万福丸まんぷくまるも逃すでないぞ!よいな!」


 まだ幼き万福丸まで討ち取れとは……

 信長はもはや正気の沙汰ではない。


 目の前にいる信長は……

 鬼だ……。


 地獄絵図の中でメラメラと燃え盛る……

 赤鬼だ……。


 お市の方と3人の姫君(茶々ちゃちゃはつごう)は、羽柴秀吉により無事救助された。


 “浅井長政と浅井久政は自害し、万福丸まんぷくまるは捕らわれ殺害。次男の万寿丸まんじゅまるは出家。長政の母である小野殿も殺害された。”


 あたしは信長との約束通り、お市の方と3人の姫君とともに清洲城へと帰還する。


 信長は半月の間に、長島周辺の敵城を次々と落とし、その勢いは留まることはなかった。



 ―清洲城―


(紅、よくぞご無事で。傷の具合は如何ですか?)


 地獄のような戦場から帰還したあたしは、帰蝶の優しい笑みに荒んだ心が救われた。


「於濃の方様、無様な姿をお見せし、申し訳ございませぬ」


(何を申す。もう十分尽力されたではありませぬか)


 帰蝶の優しい眼差しが、姉と重なる。

家族の元に帰ったような、あたたかな温もりに包まれ、合戦で疲れた身も心も穏やかになれた。



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