紗紅side
114
「平手殿、傷の具合は如何ですか?」
あたしは慣れない合戦により、右腕に斬り傷を負う。
「羽柴殿、大した傷ではござらぬ」
木下藤吉郎秀吉改め、
でもこの目……
どこかで見たことがある……。
「小谷城はもはや陥落寸前。あとはこ
の羽柴秀吉にお任せ下され」
「羽柴殿、お市の方様はどうなるのですか」
「お市の方様と3人の姫君は、何としてもお助け致します」
お市の方は信長の妹。
その妹の嫁ぎ先である浅井長政を攻めるとは、信長の真意があたしには理解出来ない。
「羽柴殿、なにとぞお市の方様を救い出して下さい」
秀吉は眉をひそめ、あたしを見つめた。
「平手殿はもしやお市の方様を……?」
「とんでもございませぬ。お市の方様は殿の妹君でございます」
「お市の方様は美しきお方。独り身の平手殿がお慕いする気持ちもようわかりますが、家臣の分際でお市の方様に想いを寄せてはなりませぬぞ」
何が『なりませぬぞ』だ。
お市の方に下心があるのは、秀吉の方だろう。あたしが知らないとでも思ってるのか。
「それは羽柴殿でしょう。美女と野獣、羽柴殿には高嶺の花ですよ」
「美女と野獣とな!?高嶺の花とは何事じゃ。何と無礼な。男前だからと天狗になるでない。侍女がキャーキャー騒いだからとて、お市の方様はお主に振り向きもせぬ」
「それはそうですね。お市の方様は浅井長政殿を心底好いておられますゆえ。他の殿方は目に入らぬでしょう」
秀吉はフンと鼻の穴を膨らませ、あたしを睨み付けた。
「それにしても美しい腕でござるな。まるで女のようじゃな」
傷の手当てで、右肩と右腕を出していたあたしを、秀吉は舐めるように見つめた。
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