113

 ――“信忠は江北攻めで初陣して以来、信長に従い石山合戦、伊勢長島攻め、長篠の戦いと各地を転戦する”。紗紅は信忠の口添えで、信長の反対を押し切り転戦に同行した。


 光秀は私との秘め事を悟られまいと、信長の重臣として忠義を尽くした。心の中で信長に懺悔していたのかもしれない。


 私は光秀と暮らしたあの月日を、後悔などしていない。


 光秀は私を生き返らせてくれたのだ。

 あの暴行事件で心は死に、その身を生かすためだけに呼吸をしていた私を、人として生き返らせてくれたのだ……。


 女として息を吹き返し、愛されることの悦びを教えてくれたのは……あのお方なのだから……。


 一生添い遂げることが出来なくても、私の愛する人はただ一人……。


 あの穏やかな光秀が、信長に反旗を翻し謀反を起こすとは、到底思えなかった。


 歴史書にもきっと誤りはある。

 光秀が信長を裏切るなんて信じられない。


 ◇


 ――元号が元亀から天正へと変わり、もはや誰も信長の勢いを止めることは出来なかった。


 信長は野望のためなら、兄弟をも殺め自害に追い込み、お市の方の嫁ぎ先である浅井長政をも執拗に攻めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る