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紗紅と2人で育てた奇妙丸は元服を迎えた。その凛々しい姿に、母としての喜びに満ち溢れる。
信長の子供を生むことは出来なかったけれど、自分が歴史を変えなかったことにホッとしている。
傅役として奇妙丸を育てた紗紅も、きっと同じ気持ちに違いない。
名乗り合えなくても、これからは姉妹で静かに暮らせる。紗紅を以前のように私の護衛にしてもらえるように、信長に頼んでみよう。
そうすれば……
紗紅は戦いで命を落とすことはない。
そう思っていた矢先……
紗紅は自ら志願して織田軍に戻った。
――どうして……。
――なぜ……。
私が美濃だと名乗らなかったから……?
「於濃の方様、ご安心下さい。俺も江北攻めに出陣致します。信忠殿の初陣にお共することを、殿が認めてくれたのです。必ずや勝利を納めて帰還致します」
紗紅が……
また合戦に……。
(行ってはなりませぬ)
死と隣り合わせの戦地に、紗紅を送り出すなんて私には出来ない。
「この俺が、殿と信忠殿をお守り致します。於濃の方様は明智光秀殿に、どうか思い留まるようにと申し伝え下さい」
光秀に思い留まるように?
その時、ハッとしたんだ。
この先に、何が待ち構えているのかを……。
――紗紅は……
もしかしたら、本能寺の変のことを言っているの?
紗紅は私を見つめ笑みを浮かべ、スーッと視線を逸らし背を向けた。
――紗紅は未来を変えようとしている。
歴史を変えようとしている。
何もせず、ただ時が経ち、自分の命が尽きることだけを考えていた私は、紗紅の後ろ姿が逞しい武将に思えた。
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