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帰蝶は一瞬目を見開いたが、すぐに優しい眼差しとなりあたしを見つめた。
(わらわは美濃国の出ですが、それが何か……?)
「於濃の方様は声だけではなく、幼少のご記憶を無くされたのではございませぬか?」
(幼少とな?病にて声は無くしましたが、わらわは斎藤道三の娘、帰蝶です)
記憶は無くしていない?
「於濃の方様は右肩に……」
帰蝶は不思議そうに首を傾げた。
帰蝶が嘘を吐いているようには思えなかった。
これ以上詳細を話すと、あたしが女であると白状しなけれぱならない。
それだけではない。
帰蝶の黒子は信長しか知り得ない秘密。
それを口にすることは、信長とあたしが通じていることを意味する。
(紅?どうかしましたか?)
「何でもござりませぬ。右肩に糸屑が……」
あたしは右肩に手をやり、さも糸屑があったかのように取り去る。
(ありがとう)
「美濃国はとてもよいところだと聞きました」
(はい。美しい国でございます)
庭を見つめ、優しく微笑む帰蝶が……
姉の面影と重なったが、それ以上問いただすことは出来なかった。
――1568年(永禄11年)
信長は天下統一に向け上洛し、
その人物とは……
帰蝶と情を通じた明智光秀だった。
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