紗紅side

106

 帰蝶もあたしと同じ右肩に……

 黒子ほくろが……!?


 信長の言葉が耳から離れず、ずっと抱いていた疑念が深まる。


 帰蝶は声は出せないものの、奇妙丸のよき母となり、奇妙丸も生母亡きあとは帰蝶を実母のように慕うようになっていた。


 奇妙丸の成長は、帰蝶とあたしの共通の楽しみでもあった。


 帰蝶と過ごす穏やかな日々は、信長の野望に触れることもなく平和だった。


「於濃の方様……」


(紅、どうかしたのか?)


「……何でもございませぬ」


 あたしと姉には、生まれつき右肩の同じところに小さな黒子がある。


 それは姉も知っているはずだ。


 帰蝶はあたしの右肩に黒子があることは知らない。何故なら、一緒にお風呂に入ったことも、帰蝶の前で着替えをしたこともないのだから。


 男の振りをしているが、姉なら紅があたしだと気付いても不思議はない。


 もしかしたら、姉はタイムスリップした衝撃で、声だけではなく記憶も無くしてしまったのだろうか。


 それともあたしのように、自分を偽り生きなければならない理由があったのだろうか。


 黒子は単なる偶然か否か……。


 あたしはそれを確かめたくて、帰蝶に声を掛ける。


「美濃だよね」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る