SHOCK 10

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 清州城の前には、明智光秀と数名の武士。侍女の中には多恵の姿もあった。


 駕籠がゆっくりと開き、姿を現したのは藤紫の着物に鶴が舞う色鮮やかな打掛を身に纏った帰蝶。


 数年の時を経てもなお、その眩いばかりの美しさはあの頃と変わらない。


「於濃の方様、よくぞご無事で」


(紅殿……)


 帰蝶は感極まり、涙を溢した。

 あたしの胸にも熱いものが込み上げる。


「平手殿、明智光秀でございます。織田信長殿にお目通り致したく参上つかまつりました」


「わかりました。まずはごゆるりと、長旅の疲れを取って下さい。殿にはこの紅が責任を持って申し伝えます」


「恐縮至極でございます。於濃の方様、こちらへ」


 帰蝶に視線を向け、さり気なく手を差し出した光秀。帰蝶も躊躇することなく、その手に美しい手を重ねる。


 男性を恐れ拒絶していた帰蝶が、光秀に手を添え共に視線を重ねる姿に、二人が従兄弟という間柄ではなく、情を通じた男女であると直感した。


 あたしの独断で皆を城内に招き入れ、信長に伝える。信長は驚きのあまり目を見開いたが、あたしを見つめ深く頷いた。


 帰蝶と光秀の待つ座敷へ信長は姿を現す。信長の隣には奇妙丸がチョコンと座っている。


「まことに……生きておったとは」


 信長は帰蝶の姿を見て絶句した。

 帰蝶と光秀は深々と頭を下げた。


「織田信長殿、それがしは越前国、朝倉義景あさくらよしかげ家臣、明智光秀でございます」


「明智光秀殿は帰蝶の従兄弟であろう。明智城より帰蝶を救い出し、長きに渡り身を匿っておったと紅から話を聞いたが、何故帰蝶をすぐに清州城へ連れて来なかったのだ」







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