紗紅side

99

「奇妙丸様、これ、お待ち下さい」


 奇妙丸は今7歳。

 ヤンチャ盛りで、城の中を走り回る。


「奇妙丸様!それ以上言うことを聞かねば、紅は怒りますぞ!」


「もう怒っておるではないか。紅は鬼のようでございますな」


「誰が鬼だ。そこに座りなさい。奇妙丸様はいずれ織田家の当主となられるお方なのです。人の上に立つお方は、鼠のようにチョロチョロせず、ライオンのようにもっとドッシリと構えておらねば。家臣を統率することは出来ませんよ」


「紅、ライオンとは何じゃ?」


「ライオンはですね。えっと……、乱世の日本国にはおりませぬが、百獣の王でございます。奇妙丸様のお父上のように、動物の中で一番強いのです」


 奇妙丸は瞳を輝かせ、あたしの話を聞いている。


「紅はほんに物知りよのう」


 座敷に座り、命を繋ぐために動物が獲物を捕らえることを教える。弱い者は強い者に食べられてしまう。この戦国の世もまた弱肉強食。


 バタバタと廊下を走る音がし、着物の裾をパタパタさせ侍女が座敷に飛び込んだ。


「紅殿!一大事でございます!!」


「おそのは相変わらず騒々しいな。そなたが落ち着きなく城を走り回るゆえ、奇妙丸様が真似をするのだ。廊下を走ってはならぬと、何度も注意しておるであろう」


「お叱りはあとで伺います。於濃の方様が生きておられたのです!あのお噂は本当だったのでございます!」


「於濃の方様が……生きていた!?」


 衝撃的な事実に、あたしは思わず立ち上がった。




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