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 1558年(永禄元年)

 吉乃は第2子を出産する。

 相次ぐ男児出産に、織田家は活気づいた。


 信長の寵愛を一身に受けた吉乃は、永禄2年には女児を出産する。


 正室なきあと、吉乃は側室でありながら正室と同等の力を持つようになった。


「殿、姫君の御誕生おめでとうございます」


「紅、ここへ」


「はい」


「わしは織田家存続のために側室を持ち、子をなしておるのだ。側室と契りを交わしたとて、子を授かったとて、この心は紅だけに向いておる」


「……はい」


 信長の心は……

 すでにあたしから離れている。


 今は吉乃と……

 3人の子供に向けられていることは、重々承知だ。


 でも……

 その小さな嘘が嬉しかった。


「殿、ちまたでは於濃の方様が落ち延びたという噂で持ちきりでございます。その噂がまことであるならば、於濃の方様を捜しだし清州城にお戻りいただくべきでは?」


「何の根拠もない、ただの噂話にすぎぬ」


「されど……」


「わしの正室は帰蝶ではない。わしは紅が真の正室だと思っている。そなたから女として生きる道を奪ったのは平手政秀だ。初めて出逢ったあの夜、紅が女だとわかっていたならば、紅とわしの関係も変わったやも知れぬ」


「……殿」


嫡男ちゃくなん奇妙丸きみょうまる信忠のぶただ)をわしの手元におき育てることと相成った。帰蝶がまことに生きておるならば、奇妙丸を帰蝶の養子としてもよい」


「そのお言葉、まことにございますね」



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