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腕力では男の信長には敵わない。
信長はジリジリと足を摺りよせ近い間合いをとる。顔が急接近し慌てて突き放し、激しく打ち合う。
一足一刀の間合いを保ちつつも、あたしは庭の隅に追い詰められ睨み合う。
信長の目……。
信長の唇…………。
動揺し目を逸らすと、信長に思い切り肩を叩かれ木刀を地面に落とした。木刀を拾おうと身を屈めると、信長は容赦なく背中を打ち付け、あたしはガクンと地面に崩れ落ち膝をついた。
「……参りました」
「紅、大丈夫か」
信長が大きな手を差し出したが、あたしは自力で立ち上がり袴についた砂を手で払う。
「何のこれしき……いたっ……」
「肩を見せてみよ」
「たいした怪我ではありませぬ」
縁側で足を洗い座敷に上がる。信長はあたしの半着の襟をむんずと掴み、両手で胸元を開いた。
いきなり胸元を開かれたあたしは、思わず「な、なにをするのじゃああー!」と、悲鳴にも似た声を上げ、晒しを巻いた胸を両手で隠す。
信長は赤くなった肩に視線を落とし、大きな手を半着に滑り込ませ背中に触れた。
「う、わわわっ……。触るな!痛いではないかっ!」
「そら見たことか。腕を回してみよ」
腕を回そうとしたが、痛くて上げることが出来ない。
「多恵、打ち身に効く薬草を持って参れ」
「はい」
「紅、ちとやり過ぎたようだな。すまなかった」
「……いえ」
「女の前で裸になるわけにもゆかぬだろう。わしの部屋で手当てをしてやる。ついてくるがよい」
「……いえ、湿布なら自分でできます」
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