75

 腕力では男の信長には敵わない。

 信長はジリジリと足を摺りよせ近い間合いをとる。顔が急接近し慌てて突き放し、激しく打ち合う。


 一足一刀の間合いを保ちつつも、あたしは庭の隅に追い詰められ睨み合う。


 信長の目……。

 信長の唇…………。


 動揺し目を逸らすと、信長に思い切り肩を叩かれ木刀を地面に落とした。木刀を拾おうと身を屈めると、信長は容赦なく背中を打ち付け、あたしはガクンと地面に崩れ落ち膝をついた。


「……参りました」


「紅、大丈夫か」


 信長が大きな手を差し出したが、あたしは自力で立ち上がり袴についた砂を手で払う。


「何のこれしき……いたっ……」


「肩を見せてみよ」


「たいした怪我ではありませぬ」


 縁側で足を洗い座敷に上がる。信長はあたしの半着の襟をむんずと掴み、両手で胸元を開いた。


 いきなり胸元を開かれたあたしは、思わず「な、なにをするのじゃああー!」と、悲鳴にも似た声を上げ、晒しを巻いた胸を両手で隠す。


 信長は赤くなった肩に視線を落とし、大きな手を半着に滑り込ませ背中に触れた。


「う、わわわっ……。触るな!痛いではないかっ!」


「そら見たことか。腕を回してみよ」


 腕を回そうとしたが、痛くて上げることが出来ない。


「多恵、打ち身に効く薬草を持って参れ」


「はい」


「紅、ちとやり過ぎたようだな。すまなかった」


「……いえ」


「女の前で裸になるわけにもゆかぬだろう。わしの部屋で手当てをしてやる。ついてくるがよい」


「……いえ、湿布なら自分でできます」





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