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「わしと帰蝶は
信長の言葉に帰蝶は頬を赤く染めた。
夫婦の契りなんて交わしていないくせに、しゃあしゃあとよく言うよ。
平手はすっかりその言葉を信じ、満足そうに笑みを浮かべる。
信長はその日を境に、毎夜帰蝶と寝所を共にした。けれどそれは平手や家臣、斎藤家より仕える侍女の目を欺くため。
夜が深まるとあたしの部屋に忍び込み、あたしの布団に潜り込む。
優しい男なのか、本物のうつけなのか、あたしにはよくわからない。
あたしは蓑虫のように布団の隅に蹲り、信長の寝息を聞きながら眠れぬ夜を過ごす。
10代の男女がひとつの布団で寝ているのだ。意識するなという方が無理な話。
「……ひっ」
信長の腕が体の上にトンッと被さる。
信長に背後から抱かれた体制となり、思わず小さな悲鳴を上げた。
信長の寝息が耳に触れトクトクと鼓動が早まる。信長が眠っていることを確認し、そっと信長の腕を持ち上げ体から引き離す。
大うつけと呼ばれている男も、寝顔を見ればまだ少年の面影が残っている。
契りを交わしたと
あたしは……もう耐えられないよ。
信長といると胸が苦しくなる。
◇
――天文18年、信長は正徳寺で斎藤道三と会見した。あたしは信長に同行する。険悪な場面も想定されだが、この会見により、斎藤道三と信長の蟠りが解消されたように思えた。
その日を境に、屋根裏に潜んでいた鼠(斎藤家が仕向けた忍び)は姿を消した。
“1551年(天文20年)
表の顔と裏の顔。
信長は奇行の持主なのか、敵を欺くために演技じているだけなのか、信長の本心がわからないまま月日だけが流れた。
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