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 あたしは今日からこの不憫な姫君の護衛を務める。


 斎藤家との和睦を快く思わない家臣もいると平手から聞かされていたが、数分前までそんなことはどうでもよかった。


 でも、帰蝶の顔を見て考えが変わった。


 ――あの日、あの時……

あたしは姉を守れなかった――


 あたしのせいで、男に暴行され瀕死の状態に陥った姉を、あの崩落事故により死なせてしまったかも知れない。


 そんな思いにずっと苛まれていたあたしが、この時代で再び姉に逢えた気がした。


 姉を守れなかったあたしが、姉の面影を持つ帰蝶を守る。


 自分の罪を詫びるように、帰蝶に深々と頭を下げた。


「於濃の方様の御身は、この紅が命に代えてもお守り致します」


 帰蝶は穏やかな笑みを浮かべ、優しく頷いた。まるで聖母マリアのようなその微笑みに、張り詰めていた気持ちが緩む。


 ――その時、乱暴に襖が開き、信長が姿を現した。信長は酔っている様子だった。


「信長様!このような時に、朝っぱらから酒を飲まれていたのですか!昨夜はどこぞに行かれたのですか!祝言の夜に花嫁をほったらかし他の女の元に行かれたとは、ほんに嘆かわしい」


 平手は帰蝶の前でも容赦なく信長を叱りつけた。


 信長は酒の匂いをプンプンさせ、帰蝶の前にしゃがみ込んだ。


「これはこれは美しい。わしの見立て通り、藤紫がよく映えておる」


 帰蝶は信長から視線を逸らし俯いた。


「わしの正室であろう。目を逸らすことは許さぬ。こっちを見ろ」


 帰蝶は怯えたように、信長に視線を向けた。

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