紗紅side
63
信長と帰蝶の祝言の翌日、あたしは平手に連れられ帰蝶の部屋に行く。
帰蝶の護衛として側にお仕えするためのご挨拶だ。
帰蝶は藤紫の色鮮やかな打ち掛け。
昨夜の白無垢姿も美しかったが、一段と華やいで見えた。
祝言では綿帽子に隠れ、赤い口元しか見えなかったが、化粧を施した美しい顔立ちは姉の美濃によく似ていた。
姉がこの時代にいるはずもなく、美濃国の姫君であるはずもない。それに姉ならば、話せないはずはないからだ。
姉の化粧した顔は今まで見たことはないが、姉の面影と帰蝶の眼差しが重なり、言葉を失うあたしに、斎藤家の侍女は生意気な口を叩く。
平手は侍女の言葉を一笑した。
このあたしが帰蝶に心を奪われるはずはない。だってあたしは武士ではなく、女だから。
帰蝶との祝言を終えたにも拘わらず、信長は奇行を繰り返す。織田の軍勢が暴走族なら、信長は荒くれ者の総長だ。
病気で声を失った帰蝶を労るわけでもなく、その夜信長は寝所に戻ってこなかったらしい。
あたしは傲慢で自己中な信長が大嫌いだ。正室がいながら女のもとに入り浸る信長にも、苛立ちを隠せない。
何故なら、髷を結っていなければ、信長と信也はどことなく目鼻立ちが似ているから。信也が次から次へと浮気をしているようで腹立たしい。
でも不思議なことに、昨夜は信長と帰蝶が寝室を共にしていないと知り、何故かホッとしている自分に気付く。
清楚で美しい帰蝶が、愛してもいない信長と夜を共にしなければいけないと思うと、借金の形に売られた遊女となんら代わりはない気がして不憫でならない。
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