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「和睦のためでございます。鳴かぬ女がお気に召さぬなら、側室を持てば宜しかろう。この婚儀は破談には致しませぬ。何としても濃姫様を正室に迎えるのじゃ」
「わかった、わかった、正室に迎えればよいのだろう。鳴かぬなら、鳴かせてみせるまで」
信長はニヤリと口角を引き上げた。
こんな男の元に嫁がなければいけない姫君が、不幸でならない。
病に侵され声が出ないなんて、この信長と喧嘩も出来ず、ただ黙って従わなければならないのか。
正室とは表向き、最初から側室を持つことを認めたも同然。魂を抜かれた人形のように、暴君な信長の傍で生涯仕えなければいけないなんて、もしあたしが姫君なら御免被る。
「そこでじゃ、紅、そなたを濃姫様の護衛につけることと相成った」
「はっ?この俺が姫君の護衛ですか?女の護衛なんて、真っ平御免です」
「これ、紅!言葉を慎め!濃姫様は信長様の正室であるぞ。話せぬ弱きお方様を守るが紅の役目と心得よ。よいな!」
ちぇっ、平手はあたしが女だと知った上で命じたに違いない。あたしなら姫君と始終一緒にいても、色恋沙汰に陥る心配もないし、むさ苦しい男の中にいるよりも、素性がばれることはないと考えてのこと。
「濃姫様の傍に仕えるのじゃ!よいな」
「はいはい」
「『はいはい』とはなんじゃ!信長様もお主もわしを小馬鹿にしおって。紅、しかと命じたぞ」
「はいはい」
不満はあったものの、男として信長に仕えるよりも、話せない姫君に仕える方が精神的に楽かも知れない。
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