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 光秀は納得した上で、小見の方にこう申し出た。


「叔母上様、この者の指南役を務める前に、帰蝶に逢わせては下さらぬか」


「わかり申した。光秀、ついてくるがよい」


 光秀は私にも同席するようにと命じた。

 離れの屋敷には家臣も侍女も立ち入ることは禁じられ、帰蝶はひっそりと病に伏せていた。


 そこには数名のおさじ(医師)が付き添い、その容態を見守っていた。


 光秀は帰蝶の痩せ細った手を握り、声を震わせた。


「帰蝶……わしじゃ。光秀じゃ。わかるか?」


 帰蝶の呼吸は浅く唇は紫色に染まり、光秀の言葉に反応することはなかった。


「なんと……おいたわしい」


 光秀は帰蝶の手を握り締めたまま、涙を溢した。従兄弟でありながら、光秀の心は帰蝶への想いで溢れている。


 その様子を目の当たりにし、光秀が帰蝶に深い情愛を抱いていると感じた。


 ――その日から、小見の方に代わり、光秀に学問や織田信長の人となりを教わった。


 織田信長が清洲城下に数騎で火を放った話や、松平竹千代(徳川家康)と幼少期を過ごした話。


 奇妙な行動も多いが、身分に拘らず民と戯れていたことも。


 気性は激しく時に激昂し、家臣の忠言耳に逆らう。


 私が嫁ぐ織田信長は、天下を納めた名高き戦国武将ではなく、最悪な男性のようだ。


「信長は天文3年皐月の生まれと聞いた。帰蝶より1歳年上になるが、言わずと知れた尾張国の大うつけじゃ。心して嫁ぐように。そなたは帰蝶や信長よりも年上である。決して間違うでないぞ。帰蝶は天文4年に生まれたのだ。よいな」


 信長は天文3年皐月5月の生まれ……。

 今は、天文17年睦月1月


 と、いうことは……。

 信長は今年の誕生日で……15歳!?

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