SHOCK 5

美濃side

47

 ――翌朝、私は侍女に起こされ目覚める。


 瞼を開き見上げた天井。ここが公営住宅の自室ではないと認識し、昨夜のことが夢ではなかったのだと改めて実感する。


「帰蝶様、おやすみのところ申し訳ござりませぬ。朝餉あさげの用意が出来ました。小見の方がお呼びでございます」


 私は起き上がり、侍女に一礼をする。

 挨拶をするために口を開いたが、やはり声はでなかった。


「数ヶ月も病に伏せ、お声が出なくなったとうかがいました。されど病が回復し、ほんにようございました。一時は危篤に陥られ、たいそう心配致しましたが、今朝は顔色もすっかりよくなられ、多恵たえは嬉しゅうございます」


 ホロホロと涙を溢した侍女の名は、多恵。帰蝶にずっと仕えていたようだ。


 多恵は明るい性格で、とてもよく喋る。

 私の着替えを手伝い、着物を着せてくれた。赤い着物に矢羽根に花丸紋の扇子が描かれた煌びやかな姫衣。想像していたよりも、ずっしりと重い。


「帰蝶様の黒髪は、とても病に伏せておられたとは思えぬほどに、艶やかで美しい黒髪でございますね」


 多恵は私の髪を櫛でとき、おすべらかしに整え、唇に赤い紅をさした。


「ほんに美しいこと。さあ、こちらへ」


 私は多恵の言葉に従い、小見の方の待つ座敷へと向かう。座敷で正座し、三つ指をつき頭を垂れた。


(おはようございます)


「帰蝶、昨夜はよく眠れましたか?」


(はい)


 小さく頷くと、小見の方も優しい笑みを浮かべ頷いた。


「それはようございました。朝餉あさげが出来ておりますよ。こちらに座り、ゆるりと食するがよい」


(はい。ありがとうございます)


 私は小見の方の向かい側に座り、両手を合わせ(いただきます)と、口を動かした。


 声を発することは出来ないが、口を動かすことで、少しでも相手に気持ちが通じると思っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る