美濃side

42

 男に暴行され気を失った私は、体に衝撃を感じ重い瞼を開く。目の前には見たこともない風景が広がっていた。


 暗がりに浮かぶ城、その城門が地獄門のようにも思えた。


 私は……殺されてしまったの?

 ここは……死後の世界?


 助けを呼ぼうとしたが、声が出ない。


 声を出そうとすると、掠れた息が口から漏れるだけ。


「何者だ!」


 威圧的な男の声に思わず体がビクつく。忌まわしい記憶がフラッシュバックのように脳裏に蘇り、両手で耳を塞ぎ硬く瞼を閉じ体を強張らせた。


(……たすけて、たすけて。お願い……誰か助けて)


「なんだコイツは?奇妙な身形をした女だな?異人か?この国の者ではないな。そなたは口が聞けぬのか?」


 男達に腕を掴まれ、城内へと連行される。薄らと雪の残る庭先に投げ飛ばされ、地面に突っ伏した。


 声が出ない私は両手を合わせ、必死で命乞いをする。


「何事だ。帰蝶が病に伏せておるのに、騒ぐでない!」


「殿、申し訳ございませぬ。実は城の外にこのような女が。奇妙ななりゆえ異人と思われますが、言葉を喋らぬゆえ、何処から来たのかわかりませぬ」


「異人とな?確かに奇妙な形をしておる。その服は南蛮のものか?女の顔を見せてみよ」


 男達は高校の制服がよほど珍しいのか、私をジロジロと見ている。私は右手で破れたブラウスを掴み、胸元を隠す。


 男の手により顎を持ち上げられ、私は恐々と顔を上げた。


「帰……蝶……!?いや、帰蝶は床に伏せておるはず。しかし……よく似ておる。帰蝶と瓜二つではないか。その者を中へ。このことは他言無用。誰にも言ってはならぬぞ。よいな」


「ははあー、畏まりました」


 城主の強い口調に、門番が平伏した。


 

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