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「体のあちこちに赤紫色の痣はあるが、白く滑らかな肌じゃ。信長様の目に触れさせてはならぬ。お主は今から男になるのじゃ。晒しを巻き乳房を隠すがよい。家臣にも侍女にも女だと悟られるでない。

 わしもそなたを男として扱うゆえ、女のような黄色い声は今後一切発しはならぬ。死にたくなければ粗暴な行動も、無礼な口も改めよ。よいな」


「ちぇっ、わかったよ」


「ちぇっとは何じゃ。『はい、畏まりました』と言わぬか」


「はいはい」


「その性根、この平手が叩き直してやるわい」


 あたしは平手に渡された晒しを胸に巻き、乳房の膨らみを締め付け女であることを隠した。


 黒の羽織袴は体に馴染まず、まるで七五三の男児みたい。着つけを平手に習い、何度も練習を繰り返し、何とか一人で着れるようになった。


 男としての身のこなしと、この時代の言葉使いを教わるが、舌を噛みそうで上手く喋れない。


「信長様は気性の荒いお方じゃ。歯向かえばすぐに首を斬りかねぬ。心してお仕えするがよい」


 首を斬る!?

 地獄の閻魔大王かよ。


「お主は何処から来た。親や兄弟はおるのか?」


「あたしは未来から来たんだ。2016年、それがあたしの生きている時代だ」


「2016年じゃと?戯けたことを。そのようなことを誰が信じるものか」


 平手は小馬鹿にしたように、「フン」と鼻を鳴らす。


「そうだよね。誰も信じてくれないよね」


 ――それならば……


 あたしはこの時代で、暫く生きるしかない。

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