信長side

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 “1546年(天文15年)

 古渡城にて元服し(13歳)、上総介信長と称する。


 1548年(天文17年)

 父信秀と敵対していた美濃国の斎藤道三との和睦が成立した。”


 ◇


 夜分、馬を走らせたくなり家臣とともに城を抜け出し山中を走る。


 月に照らされた白い山肌はとても美しく、寒さも忘れるくらい心地よい。


 馬を走らせるていると、前方の草むらが揺れた。


 我が身を狙うくせ者か、はたまた獣か。


 手綱を引き、馬の走りを止め腰に差した刀に手をかける。


 ガサガサと枯れ葉が揺れ、暗闇に人影が浮かぶ。月に照られたその横顔は、見たこともない風貌の異人。


「名は何と申す?」


 異人は家臣を見据えたまま、首を左右に振る。


 長き髪は茶色。その髪を馬の尻尾の如くひとつに束ね、黒目がちな大きな目を見開き、白い肌に黒き唇。


 一見怯えた風でもあるが、その眼光は鋭く光り、唇を一文字に結んでいる。


 黒い服の背中には、色鮮やかな赤い牡丹の花に戯れる黒い蝶と紫色の蝶が刺繍され、赤い文字で黒紅連合と書かれていた。


 何処の国から流れ着いた異人なのだろうか?


 黒いべにをさす者など、この戦国の世で初めて目にする。


「信長様、この者を捕らえますか?」


「好きにしろ」





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