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 バサバサと羽音がし、思わず身を竦める。ポケットの携帯は当然圏外だ。


「一体、今、何時なんだよ」


 寒くて凍える体。

 夜道を歩くことを断念し、取り敢えず木の根元に蹲り寒さを凌いだ。


 遠くから……

 動物が走る音がした。

 地面を力強く蹴る音だ。


 あたしは思わず木の陰に身を潜める。

 ヒヒーンと馬の鳴き声がし、パカパカと蹄の音が近付く。


 こんな深夜に乗馬……?

 まさか?


 数頭の馬が段々近づいてくる。

 馬の上には人影が見えた。


 一晩中、ここにいればあたしは凍死してしまうかも知れない。今、助けを求めなければ、こんな山奥で人に逢うこともないかも知れない。


 意を決して木陰から姿を現し、身を屈め様子をうかがう。


 近づく者達が、月華げっか雷竜会らいりゅうかいではないことを祈った。


 馬の蹄が止まり、あたしを見下ろす男達。頭には髷を結い羽織袴を身につけ、刀を腰に差し馬の手綱を巧みに操る。


 テレビで見たことがある時代劇の侍のようにも見えた。


 ドラマか映画の撮影現場に迷い込んだのかな?


「名は何と申す?」


 馬に跨がりあたしを見下ろす男達。

 あたしは男をキッと見据え、首を左右に振る。


 撮影現場に立ち入ったことをとがめているに違いない。


 カメラや照明、撮影スタッフは一体どこに隠れているのだろう。

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