32

 ◇◇


 サワサワと葉の揺れる音がし、冷たい風が頬を撫でる。肌を刺すような寒さに重い瞼を開く。それもそのはず、あたしは降り積もった雪の上に倒れていた。


 周囲は暗闇に包まれ、住宅の灯りも車のライトも、外灯すらない。あるのは夜空に浮かぶ月。


 一体……

 ここはどこ?


 あたしは……

 なぜ、こんなところに……?


 月華げっかに拉致され暴行を受け、あたしは山に捨てられたのか?


 ……いや、違う。

 あの時、大きく地面が揺れた。


 あれは巨大地震……?

 それとも……?


 倉庫の床に亀裂が走り、地面が隆起した。床の亀裂は化け物の口のように、大きく裂けた。あたしは穴の中に吸い込まれるように転がり落ちた……。


 ――そのあとの……

 記憶がない。


 体を動かそうとしたが、月華に受けた暴行で節々が激しく痛む。寒風は容赦なく傷付いた体から体温を奪う。


 ふと、無残な美濃の姿が脳裏に浮かんだ。傷付いた喜与や那知、璃乃。助けに来てくれた信也……。


「……美濃。信也……!喜与!那知!璃乃ー!」


 声を上げ名を叫ぶ。痛む体を起こし草むらを捜したが、美濃の姿も喜与達の姿も何処にもなかった。


 美濃や喜与達は……

 まさか……雷竜会に……。


 みんなを助けなければ……

 早く助けなければ……。


 かたわらに落ちていた木の枝を杖代わりに、足を引き摺りながら雪の積もる山道を歩いた。

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