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 倉庫の天井がバキバキと不気味な音を鳴らす。


 みんなは蹌踉よろめきながらも、一斉に出口に走る。倉庫内から外に出るためにシャッターを開けようとするが、建物が歪み思うように開かない。


 信也の姿を目で探すが、あざみに封じられる。倉庫内は霧のように粉塵ふんじんが舞い視界が霞む。


 もはや倉庫内は地獄と化していた。落下物で怪我をし動けない者。ガラス片が体に突き刺さり流血している者。


 男達は落下した木材や壁の下敷きとなり、頭や口から血を流し呻いている。


 倉庫内に悲鳴と怒号がとどろき、血に染まり割れた窓に必死でよじ登る女達。シャッターの隙間から、我先に這い出そうとする女達。


「紗紅ー……」


 信也の声が……

 微かに聞こえたが、姿は見えない。


「信……也……み……の……」


 傷を負い動けないあたしの体の下で、さらなる亀裂が広がる。倉庫の床がバリバリと音を立てて裂ける。


 ゴオーと薄気味悪い地鳴りがし、天井がパラパラと落下する。建物の中央がその亀裂に吸い込まれるように陥没し、屋根が一瞬浮き上がった。


 ――倉庫が……

 崩れ落ちる……!


 あたしは目を見開き、天井を見上げた。

 コンクリートの床の地割れは広がり、巨大な口を開けた。


 ――次の瞬間……

 スローモーションのように周囲が歪んだ。


 建物が崩れ落ちたと同時に、あたしの体は巨大な穴に吸い込まれ、暗黒の世界に堕ちた……。

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