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 ――その時、倉庫のシャッターがガタガタと音を立てて開いた。そこに1人の男のシルエットが浮かび上がる。


 男のシルエットはコツコツとこちらに歩み寄る。女達は直ぐさまシャッターを閉め、木刀や金属バットを振り上げ、新たな標的を見据えた。


「あざみ、やっぱりお前か。逆恨みはよせ。紗紅達を返してもらうよ」


「信也!どうしてここが!」


龍刃りゅうじん連合の後輩から連絡があった。じきに龍刃連合も集結するだろう。お前のやってることは犯罪だ。俺が憎いなら、この俺を殺れ。黒紅連合も紗紅も関係ねぇ!」


「犯罪?上等じゃねぇか。お前が元龍刃連合の赤鬼か。この女は俺がもらったんだ。お前には渡さねーよ」


 男がジャンパーのポケットから、サバイバルナイフを取り出す。


「お前は……雷竜会らいりゅうかい野口のぐち


「龍刃連合の赤鬼と呼ばれたお前が、今は修理工場の従業員だって?俺達の組に入れば、そんなことしなくてもいくらでも金は稼げるぜ。これからはこの女達がバンバン稼いでくれるからな」


 男は嘲うように、あたしを蹴飛ばす。


「……うっ」


「紗紅!」


「黙って女を渡すなら、今回は見逃してやる」


 信也は床に転がる角材を手に取り、怒りに満ちた目で男を見据え、刀のように角材を構えた。


 ――と、その時……


 地面をドンッと突き上げるような、激しい縦揺れが起こり、女達が悲鳴を上げ逃げ惑う。


 小さな横揺れが次第に大きくなり、倉庫に積まれていた廃材が、ガタガタと崩れ落ちた。


 倉庫の床にピキピキと亀裂が走る。床のコンクリートはひび割れ地面が隆起し、窓ガラスはバリバリと音を立て砕け散る。

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