13
「信也、泊めてくれないの?」
「ここは社員寮みたいなもんだからな。ここで同棲はできないよ。それに親と喧嘩したくらいで家出するなんて、賛成できねぇ。紗紅、早くシャワー浴びろ」
「わかったよ!帰ればいいんだろ!」
満ち潮が音を立てて引くように、さっきまでの昂揚感が一気に冷めていく。
あたしは洋服を掴み浴室に入る。
狭い浴室、ポタポタと水漏れしている錆びた蛇口。シャワーの栓を捻ると水が吹き出し思わず悲鳴を上げ、シャワーに八つ当たりする。
「なんだよ、このボロアパート。シャワーまでバカにしてんのかよ」
低めに湯の温度調節をし、火照った体を冷ます。
肌の上を水滴がコロコロと転がる。
あたしの気持ちも、コロコロと転がり落ち排水溝に吸い込まれる。
浴室のドアの外で、信也の声がした。
「……さっきはごめん」
そんなこと言わないでよ。
どうして謝るの。
信也の本心を知りながら、抱かれた自分が惨めになる。
あたしはシャワーの水量を強め、信也の声を掻き消し、聞こえなかった振りをして返事はしなかった。
あたしは信也みたいに大人じゃない。
こんな時、どんなリアクションをしたらいいのかわからない。
それでも……
信也のことが嫌いになれないなんて、あたしもとことんバカだ。
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