SHOCK 2

14

 その夜、信也はバイクであたしをアパートまで送ってくれた。


 帰りたくなくて、グズグズしているあたしの背中を、大きな手でドンッと突き放す。


「紗紅、家族とちゃんと仲直りしろよ。またいつでもメールしな。じゃあ、またな」


「……おやすみ」


 仲直りなんてしねーよ。

 何で、そんな優しい目であたしを見るの。自分もヤンキーだったくせに、いい子ぶらないでよ。


 信也のバイクが夜の闇を走り抜ける。


 あたしを捨て猫みたいに置き去りにするなんて、どういうつもりだよ。


 あたしのこと、好きじゃねーのかよ。


 外灯に照らされ、公営住宅を見上げる。


 帰りたくないけど、野宿する勇気もないし金もない。ここしか帰る場所がない。


 二度と戻らないと飛び出した階段を上り、玄関の鍵を開けこっそり室内に入る。母も姉ももう寝静まり、ダイニングテーブルの上には、サランラップがかけられた夕飯が置かれていた。


 伸びきったカップラーメンが啜れなくて、結局何も食べていないあたし。お腹の虫がグーッと音を鳴らす。


 お皿にはおむすびが2つと、野菜サラダとコロッケが2つ。コロッケはミートコロッケとカレーコロッケだ。


 またか……。


 お皿の横には1枚のメモ用紙。

 綺麗な文字はお節介な姉の字。


【紗紅、お帰りなさい。明日学校だからね】


 あたしが帰ってくると思ってたんだ。

 あたしは何処にも行けないと思ってんの。


 いつかきっと……

 こんな家、出て行ってやる。


 あたしはメモ用紙を丸めてゴミ箱に捨てる。お皿を乱暴に掴み自分の部屋に入る。


 四畳半の狭い部屋。小さなテーブルの上にお皿を置き、コロッケをパクつきながら信也から借りた本を捲る。


 ―織田信長―

 2歳にして那古野城主となった。尾張の大うつけと呼ばれ、身分に拘らず城下の若者とも戯れ、奇抜な行動ばかりしていた。

 別名、第六天魔王、赤鬼。


 赤鬼か……

 どんな奴だったんだろう。


 姿絵はどことなく目元が信也に似ている気もする。いや、信也の方が断然イケてるな。


 あの目で見つめられると、野良猫のあたしも従順な仔犬になる。


 あたしと信也……。

 出逢いは偶然、必然、それとも運命……。


 風もないのに、パラパラと本のページが捲れた。







 

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