室内の壁は黄ばみ、床も歩く度にギシギシと音が鳴る。だが、室内は意外と綺麗に掃除されていた。


「な、お化けが出そうだろ」


 信也は笑いながら革ジャンと白いTシャツを脱ぎ捨てる。筋肉質で逞しい上半身が露わになり、あたしは慌てて視線を逸らす。


 信也の体には古傷があった。信也にも荒れていた時代があったことを、その痛々しい傷痕が物語っていた。


「俺、シャワー浴びるから、適当に座ってて」


「……うん」


 室内にひとつだけある小さな電気ストーブ。そのスイッチを入れ、室内を暖める。1Kしかない室内には、シングルベッドとテレビと小型冷蔵庫、黒い本棚とカラーボックス。


 カラーボックスにはTシャツやジーンズが畳んで収納され、ジャンパーはハンガーで壁にかけられている。


 座れる場所は、僅かなスペースの床かベッドしかない。


 ギィギィ音を鳴らす床に座る気にはなれず、ベッドの端に腰を下ろす。


 信也の部屋の本棚には、DVDや単行本が並んでいた。DVDは戦国時代の邦画、単行本は歴史書や戦国武将の登場するものばかり。


 暴走族に入っていたのに、不思議と車やバイクの雑誌は一冊もない。本棚から単行本を一冊抜き取り、パラパラと捲る。


 暫くして信也が浴室から出て来た。上半身は裸、逞しい胸板が視界に迫りトクトクと鼓動は早まる。


 信也は赤いタオルで濡れた髪を拭きながら、本を手にしているあたしに視線を落とす。


 爽やかなシャンプーの香りがプンと鼻を擽る。


「紗紅も織田信長に興味あんの?」

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