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「信也、このまま黙って引き下がるのかよ!」
「紗紅、いいんだ。秀さんごめん。今日は帰るよ。店で騒いで悪かったな」
「いえ。信さん、また来て下さい」
険悪な空気にも動じない店主は、信也に白いタオルを差し出したが、信也は濡れた髪を拭こうともせず店を出た。
あたしは腹立たしい気持ちを抑え切れず、コップの水をあざみにぶちまけた。
「てめぇ!」
「あざみ、今日はやめとけ」
ずぶ濡れになったあざみは、あたしに殴り掛かろうとしたが、宏司にたしなめられ踏みとどまった。
あたしは店を出て階段を駆け上がり、ポケットから取り出したハンカチで信也の濡れた髪を拭いた。
「ありがとな。紗紅、これからどうする?飯食いそびれたから腹減っただろう。俺んちに来るか?」
「あたし……家に帰りたくないんだ」
「プチ家出かよ。しょうがねぇな。バイクに乗れよ」
「うん」
バイクに跨がり、あたしは信也の背中に抱き着く。バイクを走らせ修理工場に戻った信也は、錆び付いた階段の下にバイクを停めた。
「この2階に住んでるんだ。汚いとこだけど、上がれよ」
「……うん」
カンカンと音を鳴らし階段を上がると、朽ちた木製のドアが3つ並んでいた。
「社長は元暴走族。アパートの住人はみんな工場の従業員なんだよ」
「そうなんだ」
今にも壊れそうなドア。塗装は落ち板も所々剥がれかけている。錆び付いた鍵穴に鍵を差し込みドアノブを回すと、ギーッと軋んだ音がした。
「通称、お化け屋敷」
「やだ。冗談キツい」
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