自分の心を悟られないように、男から視線を逸らし、信也の煙草ケースから煙草を1本抜き取り口にくわえた。


「紗紅、未成年のくせに煙草なんか吸うんじゃねぇ」


 信也はあたしの口から煙草を奪い、自分の口にくわえライターで火を点けた。


「紗紅……?あんた、もしかして黒紅連合くろべにれんごうの……?」


 あざみと呼ばれた女が、あたしをまじまじと見ている。仲間と走る時は素顔がバレないように濃いメイクをしているが、今日は信也と一緒だからメイクはしていない。


「黒紅連合って、最近この界隈を彷徨いてるレディースじゃん。メイクしてねぇし、フツーの恰好してっから、わかんなかったよ。へぇ、信也もまだ抜け切れてねぇな。レディースの総長が新しい女だなんて、俺達と一緒じゃん。

安月給で働かなくても、金が稼げる方法は幾らでもあるんだぜ。お前さえその気になれば、俺が雷竜会の幹部に口を聞いてやってもいいぞ」


 雷竜会……!?

 闇の組織……!?


「お前ら、裏で汚い商売してんじゃねぇよ。俺はもう引退したんだ。族とはもう関係ねぇ」


 あざみが立ち上がり信也にツカツカと歩み寄る。手にしていたグラスを持ち上げ、グラスに入っていたビールを信也の頭に浴びせた。


「族とはもう関係ねぇ?あんたのせいで、さくは死んだんだ。族をやめれば、それでチャラになると思ってんの?」


 あたしは思わず立ち上がり、あざみの胸ぐらを掴む。


「てめぇ、何やってんだよ!信也に詫び入れろや!」


「詫び?あはは、信也聞いた?詫びを入れなきゃなんないのは、信也だよね?この女、いかれてんの?」


 信也が真顔で立ち上がり、あざみではなくあたしの手首を掴んだ。


「紗紅、やめろ」

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