ビルの地下にある居酒屋。

 薄暗い階段を降りると、木製のドアが見えた。ドアを開けると店内は煙草の煙が燻っている。


「信さん、いらっしゃい」


ひでさん、久しぶり」


「これは……。可愛い人ですね。信さんの彼女ですか?」


 信也と同年齢くらいの若い店主が、あたしに視線を向け笑った。この店主も元暴走族らしいが、今はその面影もない。


 信也は店主に視線を向け、無言で口角を引き上げる。

 

 店の奥には2人の男と若い女が数人。

 女はこちらに背を向けているが、全員金髪や茶髪。その席から煙草の煙がモクモクとたち上がり、その風貌は見るからにヤンキーだ。


 テーブル席に着くと、背後から声がした。


「おう、信也じゃね?」


 ひとりの男がこちらに気付き、信也に声を掛ける。


「何だ、宏司こうじごうか。元気そうだな」


「まぁな。お前、真面目に働いてるってほんとかよ?」


「ああ、働いてるよ。俺達、もう20歳だぜ。お遊びは終わりだよ。宏司らは今何やってんの?まだつるんで走ってんのか?」


「俺達は色々な。それよりいい女連れてんじゃん。もう新しい女か?」


 男はニヤニヤ笑いしながら、煙草を吹かす。同席していた女が後ろを振り返った。


 信也と女の視線が重なり、2人の間に微妙な空気が流れた。


「……信也」


「あざみ……」


「何だ、お前ら知り合いなのか?」


「ちょっとな」


 信也は言葉を濁したが、女は明らかに動揺している。


「信也の彼女、どっかで見たことあんだよな。なぁ、どこだっけ?」


 男は灰皿に煙草を捻り潰す。


「宏司、俺の女をナンパしてんじゃねぇ」


 信也に『俺の女』と言われ、あたしは嬉しい反面、どうリアクションすればいいのかわからなかった。

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