第8話 決着
再び俺はストラツとの間合いを詰める。ストラツは俺を間合いに入れるまで、微動だにしない。
やつが動き出すのは振り下ろした俺の剣が、ストラツの脳天に当たるまでコンマ秒にも満たないという距離まで近づいた刹那だ。
確実に決まったかと思った次の瞬間、俺の剣は空を裂く。
神速の剣士の異名を持っているやつだったが、予想をはるかに超えたとんでもないスピードだった。俺の剣の射程外にいたはずが、瞬間に間合いを詰められてしまい、瞬きをする暇もない。
剣だけでは追いつかず、拳を振り回し、蹴りを放つ。突き出した足を斬られそうになり、素早く引っ込める。かわしたはずなのに、俺のズボンが血でにじむ。
今のところ薄皮で済んではいるものの、俺は手も足も出せずに全身を切り刻まれていた。
ストラツの放つ全ての斬撃が、致命傷になりかねない鋭さ。まさに紙一重だ。
「どうした……。おまえは俺に、まだ傷一つつけていないぞ」
傷一つどころじゃないのだ。
俺はストラツの体に触れることさえできていない。これほどまでの強さだったとは、想定外すぎる。
ストラツはあれだけ動き回っているのに、まったく息を切らせていない。
このまままともにやりあっていても、いたずらに命を消耗していくのは明白。まだギリギリ体力が残っているうちに最後の勝負をかけなければ、俺に勝ち目はない。
「ケッ! 踏み込みが甘いぜ! 本当はビビってんだろ、俺のパワーによ! かすり傷つけたくらいで語ってんじゃねえよ」
息も絶え絶え、ハッタリをかます。
安い挑発だった。頭の切れるストラツなら、そんなことくらいお見通しだろう。
このままスピードでかき回して俺をいたぶれば、ストラツの勝利は揺るがないのだ。
だが、俺もおまえも根っからの剣士。
俺が仕掛けた最後の勝負、もちろん受けて立つんだろう?
ストラツが微かに笑みを浮かべる。
俺は次の攻撃に自分の全てを込めるため、両手持ちで大剣を構えた。
ストラツが一気に間を詰めてくる。あれほどの速さにタイミングを合わせるなんて、俺の腕では不可能だ。
俺はストラツが動き出した瞬間、無心で大剣を振り下ろした。
どうせストラツは、俺の剣なんて最小の動きでかわすだろう。
それがストラツの強さであり、しかし付け入る隙もまたそこにある。俺がストラツより上なのはパワーのみ。最初から、そこに賭けるしかなかったのだ。
振り下ろした俺の大剣は、わずかにやつの髪の毛を斬っただけ。やはりストラツを捉えることはできなかった。
だが俺は、お構いなしに大剣をそのまま地面に叩きつけた。
地面が激しく破裂して、大量の土砂をあたり一面に撒き散らす。
「ぐ!」
ストラツのうめき声が爆発音に混じった。
土砂を含む衝撃波に吹き飛ばされ、ストラツが地に伏せる。
俺はストラツが体制を整える間を与えず、剣先をやつの顔に向けた。
俺もストラツも身動きすることなく、互いに睨み合った。
あたりを静寂が包む。
「どうだ……。剛の剣も侮れないだろ」
俺の言葉に、ストラツの目から鋭い殺気が失せていく。
「おまえの勝ちだ……おまえが生きろ……。俺の屍を超えて」
剣士として死ぬ覚悟を宿した潔い目を、ストラツが真っ直ぐ俺に向ける。
「ためらうな……。剣士として死力を尽くし、強い者が生き残る。それだけのことだ」
「わかっている……。それが剣士の定めだ」
剣士として俺は……ストラツを介錯せねばならない。
躊躇してはならない、哀れみをかけてはならない。
ストラツという剣士に……男に敬意を評し!
俺はゆっくりと大剣を持ち上げたあと、一気に振り下ろした。
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