第4話 摘出不能
俺とストラツは診察室に置かれた丸型の椅子に腰掛け、マリスと向かい合った。そして、魔術師メイザーとの出来事をマリスに説明する。
毒入りの小さな玉。
果たして本当にそんなものが、体内に埋め込まれているのだろうか。一瞬の出来事だったし、体の異常は全く感じない。
俺たちの話を聞き終わったマリスは、両の手のひらをこちらに向けて、ゆっくりと目を閉じた。
マリスの手のひらが、淡い光に包まれる。
マリスは俺たちの心臓部あたりに手のひらを向けて、手探りするかのようにゆらゆらと動かし始めた。その後、俺たちの体をなぞるように、手をゆっくりと頭のてっぺんから足先へ向けて動かしていった。
しばらくして、マリスが大きく息を吐き、スっと目を開いた。
「確かに……心臓部に小さな玉のようなものを感じるわね」
やはり毒入りの玉は存在したのだ。
苦し紛れの負け惜しみなどとは思っていなかったが、それでも突きつけられた事実に落胆する。
己の過信、油断、未熟さが招いた結果。俺は悔しさで、下唇を強く噛み締めずにはいられなかった。
「なんとかならねえのか」
メイザーが相当な術者だったのは間違いないのだろうが、マリスもまた、国内屈指の医療術師だ。
魔術のレベルでいえば、マリスはどう低く見積もってもメイザーと互角以上のはず。並の医療術師なら無理かもしれないが、マリスならなんとかしてくれるだろう。
そんな期待があった。
「残念だけど。玉はあなたたちの肉体と同化していて、摘出は不可能だわ。それに毒の主成分もわからない以上、解毒剤も作りようがない」
マリスの言葉に、俺は意外と冷静だった。
マリスでもダメなのか。ただただ、そんな重い気持ちにため息が漏れるだけだった。
剣士として戦場へ赴く以上、少なからず死の覚悟はつきまとう。しかしここ数年、連勝に連勝を重ねてきた俺は、死を意識することがほとんどなくなっていた。ストラツも同じだろう。
油断。
メイザーの言葉が再び胸を突き刺す。自分への怒りで、強く拳を握りしめる。
ストラツは腕を組み、診察室の隅を凝視している。
マリスは椅子から立ち上がり、悔しさに煮えたぎっている俺たちを見下ろして言った。
「はっきり言ってお手上げ。大したものね、その魔術師」
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