星の少女②

「よく抜け出せましたね。掘った側としても、改善点を教えてもらいたいです」


少女を地上に引き上げると、情報と同じ顔と確認出来る。

身長はそれほど高くなく、高校生くらいの童顔で琥珀色の目が特徴的だった。


顔に付いている土を指で取ろうとすると、長くて手が出ていない少女の袖から、刃物が出て来る。

俺が伸ばした腕に当てたそれは、月の光を受けて少女の眼光と等しく光る。


「顔に付いている土を取るだけだ」


「自分で取れます」


腕を引っ込めると、少女の刃物が袖の中に引っ込んでいく。

ELIZAが今の行動を記録して、使用武器の項目に刃物と付け加える。


スカートに付いた執拗い泥を諦め、金色の髪に付いた土を取る。

顔を手の甲でごしごしと拭くが、頬に付いている土は取れない。


「顔に付いてる」


「自分で……」


「取れてないから二回言った」


「入浴するので大丈夫です」


建物内に戻ろうと歩き出すと、卯衣が隣を歩く。


「そう言えば、あの穴は自分で掘ったんだよな」


米内よない提督と山本さんを落とそうと掘ったのですが、掘ったことを忘れていました」


とんでもない天然少女の物忘れに付き合わされた挙句、助けたにも関わらず刃物を向けられたのは、流石に疲労を感じる。

ど天然と追加したELIZAは、卯衣の服装にコスチュームチェンジする。


人工知能がお洒落をするのか不明だが、ELIZAは何かを気に入ったらしい。

出てきた窓に向かおうとすると、袖を掴まれて引っ張られる。


「何処に連れてかれる」


「お風呂です。貴方も泥だらけですので、米内さんが怒ります」


庭の端にある扉から建物に入って、廊下を曲がる。

暫く直線の廊下を歩くと、卯衣が立ち止まる。


「どうした」


「私の自室は此処ですので。お風呂はこの廊下を真っ直ぐ進めばあります」


「有難う。先に行く」


部屋に入っていった卯衣と別れて、ひとりで廊下を進む。

卯衣の言った通り、廊下の突き当たりに湯と書いてある布が吊り下げられていた。


以前ELIZAが話していた、暖簾のれんと言う日本独特のものだそうだ。

少しかがんで暖簾を避ける。


「違います。暖簾は手で押すものです」


ELIZAがアップで視界に入って来て、自分の体でやってみせる。


「そうなのか、それが日本のやり方か。やり直そう」


もう一度廊下に戻って、今度は暖簾を手で押して入る。


「完璧です」


「そうか、日本文化も難しいな」


暖簾を潜ると、次は道が二つに分かれていた。

右には青がベースの湯と書いてある暖簾。


左には赤がベースの湯と書いてある暖簾が垂れ下がっている。

青か赤、どちらの色が好きかと言うと、赤のほうが好きなので赤の暖簾を手で押して潜る。


暖簾の先にある扉が開くと、脱衣所が広がっている。

扉を潜る時赤いセンサーのような膜があったが、何事も無かったのなら正解なのだろう。


二百年前のままの景色を残した脱衣所は、棚に籠が置いてある。

ひとつのカゴの前に立って、スーツを畳んで籠に入れる。


次に肩にかけていたホルスターを外して、籠の中に入れる。

脱衣所の扉が開いて、卯衣が籠を持って入って来る。


「卯衣、あんたも赤色の方が好きなのか、同じだな」

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