Japanese Traditional①

扉を潜って暫く固まったままの卯衣は、空いたままの扉の方を振り返って、暖簾の色を確認する。


「男湯は青色の暖簾の方ですよ」


「そうか、なら良かった」


「良くないのであちらに行って下さい」


「待て、今触られると外れ……た」


胸に巻いていたさらしが外れて、押し潰していた胸がワイシャツに浮かび上がる。


「お、お……大きくないのですね」


「殴るぞ。別に大きいと邪魔だから良かった方だ、大きいと潰すのが大変そうだからな」


何故か同胞を見る目で見られる。

頭に付けていたカチューシャを外すと、ショートヘアだった髪が、腰の下まで伸びてスーパーロングになる。


頭を左右に振ると、長い髪が波打って揺れる。


「凄いですねそのカチューシャ、短くなってしまうのですか」


「いや、これはきちんと髪を短く見えるようにしている」


視線を気にしながらもズボンを畳み、上着の上に重ねる。

ワイシャツのボタンを外して、袖から腕を抜く。


ワイシャツを羽織ったまま落ちた晒を拾って、ゴミ箱に捨てる。


「そんなに見られてると、同性でも恥ずかしいんだが」


ずっと脱いでいる光景を見ていた卯衣は、自分の籠さえ拾っていなかった。


「御免なさい、やっぱり細くて白いと思いまして。とても綺麗です、私と同じくらいですが」


「次胸の話したら殴る」


「私はCですが、貴女はBくらいでしょうか」


「失礼だな、C寄りのDだ。あんたよりもひとつ大きい」


墓穴を掘った卯衣は、肩を落としたまま籠を拾う。

体にバスタオルを巻いて、浴場の入り口の前に立つ。


自動ドアのセンサーが反応しない。

飛んだり手を翳したり、手を振ったりしてセンサーに認識させようとするが、扉が開く事は無い。


「やっぱり、少しは揺れるのですね」


「いい加減殴るぞ。そんな事より、故障じゃないのか」


背後から卯衣が扉に近付くと、すんなり開く。

隣を歩いていった卯衣は、俺の顔を見て笑う。


「やっぱり実際のサイズよりも小さいので、センサーが反応しなかったのでしょう」


横を通り過ぎようとしていた卯衣の手を掴んで、自分の胸を触らせる。


「俺の場合身長の高さもあり、小さく見えるだけだ。それにアンダーの細さもある、だからサイズが大きく出されるんだ」


「その高身長の所為で大きさはそれ程ですが、触り心地は完璧ですね。ふわふわで幾らでも触れます」


卯衣の手を引き剥がそうと考えたが、油断するとタオルまで剥ぎ取られる。

打つ手を考えている内に、だんだん思考が回らなくなってくる。


頭がぼーっとして、何故だか息も少し上がってくる。


「離せ、これ以上は……」


「これ以上は?」


「これ以上、は……死ぬ」


床にヘタリ込むと、卯衣の手が離される。


「MI6のエリートさんが駄目なるところ、非常に興味深いですね」


「次触ったら、国際問題にするからな」


「触らせたのは貴女です」


「俺は……確かに触らせたけど」


言い返すことが出来ないので、浴室に逃げ込む。

お湯で濡れている床を走っていると、止まることが出来なくなる。


止まろうとすると滑る床は直進しか許してくれず、そのまま前の湯船にダイブする。

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