ELIZA③

目的の店の中に入ると、店内は若い女性で賑わっていて、店内の席が殆ど埋まっていた。

俺に気付いた店員が笑顔で案内に来て、崩れない笑顔で空いている机に誘導してくれる。


「おい、M029置いてくなって。あ、連れっす」


アイルが店に入ってくると、店員に頭を下げながら向かい側に座る。


「チーズケーキ、チョコケーキ、いちごパフェ、いちごタルト、ガトーショコラ、マカロン。あと珈琲」


「俺は珈琲だけで」


机に備え付けてある注文パネルを操作して、ページ内の物を全てをオーダーする。


「ELIZA休暇後の予定」


「はい、このようになってます。初日の仕事は日本に行くことになってますよ、楽しみだなー。何着て行きましょ!」


鬱陶しくはしゃいだELIZAは、スケジュールを早く立てろと言わんばかりに、角膜に予定表が表示させる。



「4月は休みが3日、日本では何をする」


「日本で天皇陛下と首相に謁見した後、日本の諜報部との交流だそうです」


「ん……」


「裏があるとお考えですか?」


「それだけで行かせる程あいつも馬鹿じゃない、殺しかギンバイだ」


暫くスケジュールと睨み合っていると、先程頼んだものが一気に机に届き、机の上がスイーツで半分以上埋まる。


「おい、これは多くないか」


「これくらい何とも……なんだ、あげないからな」


「取らねーよ……っておいおいおいおい、珈琲にどれだけ砂糖入れるんだよ。色変わってるじゃないか、これ以上禁止な」


「五月蝿い」


角砂糖を7つ入れ切って、スプーンで切るように縦に掻き回す。

それを引きながら見ていたアイルは、口をだらし無く開けて、折角の珈琲が勿体無いと言う顔をする。


底に砂糖が沈殿してざらざらと音を立てる珈琲を一口含むが、飽和してもまだ少し苦い気もする。

角砂糖にゆっくりと手を伸ばしてもう一個足そうとすると、しっかりと視界の端に捉えていたアイルの手に止められる。


仕方が無く渋々砂糖を諦めて、先に目の前のケーキに手をつける事にした。

ケーキの先端の尖っている所から崩して、フォークに乗せて素早く口に運ぶ。


無言で食べていると、アイルがぼーっとこちらを見つめている。


「美味いか?」


不意にアイルの口が動いて、笑顔でそう聞かれる。


「普通」


「今日会ったばっかだけど、お前の笑った顔初めて見たわ。やっぱり笑うと、まだまだ子どもなんだな」


「……笑ってない」


気になって自分の顔をぺたぺた触ってみると、少し口角が引きるように上がっていた。

今までケーキを食べてもこんなことは無かったのだが、今回は何故か体が勝手に笑っている。


「な? 笑ってるだろ、上手いなら素直に言っとけよ」


何か負けた気がするままで居られない為、せめてもの抵抗で、パフェに刺さっていたビスケットをアイルの顔目掛けて投げる。

だが、アイルはビスケットを口で受け止めて、もぐもぐと咀嚼そしゃくしていく。


「返せ」


「お前がくれたんだろ?」


もごもごもごもご咀嚼して、容赦無く人のビスケットを胃袋に収める。

注文したものを全て食べ終わる頃には、アイルは珈琲を四杯も飲んでいた。


カフェインを取り過ぎたアイルは、トイレに駆け込んでしまった為、追加でショートケーキを頼んで待つ事にした。


「M029、休暇期間中悪いが緊急事態だ。直ぐに日本に飛んでくれ、警察官も一緒に居るだろ、そいつも連れて行って構わないってよ」


「断る、今は休暇期間中だ」


「クイーンの命令だ」


「……分かった」


ケーキを口に無理矢理詰め込んで椅子から立ち上がると、丁度アイルがトイレから帰って来る。


「お? どうした、何かあったのか?」


「直ぐに日本に発つ事になった、来るか」


「いや、遠慮しとくよ。妻も子どもも居るし」


「分かった」


急いで全ての会計を済ませて、アイルを置いて店から飛び出る。

タクシーで本部に向かおうとしていたが、カフェの前には既に黒塗りの車が止まっていて、日本に向かわせる準備は万端だった。


「嫌になるな」


「乗れ」

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