Code:M029②
「M029、もう一度作戦の確認だ。今回はテロリストの乗っている軍艦、つまり放射性廃棄物が燃料じゃない旧式軍艦の制圧。ターゲットの生死は問わないって。近年は上も物騒になったねぇ」
「分かってる」
ステルス万能機ikaruga内部のモニタで海上に浮かび上がる大きな島を確認し、背中に背負っているバッグのベルトで体に固定する。
今から殺しをすると言うのに、体に埋め込んであるASCを介して、耳に通信士の不快な声が流れ込んで来る。
真夜中の海に点々と点っている光をモニタで確認して、透明になった床からも、しっかりと肉眼で目視出来た。
幼い頃から愛用してきた、想い入れのある銃の状態を確認して、脇腹のホルスターに仕舞う。
「今回制圧するのはIowa級戦艦のIowaだ。また大きいな。これは2年前のテロの際にアメリカが奪われた物だが、何故かこのイギリスに来やがった。本当に迷惑だな」
本部は余程暇なのか、通信士はどうでも良いことばかりを喋り、なかなか黙る気配が無い。
耳を通り抜ける雑音を気にせず、今回組むことになった男の隣に立つ。
「銃の準備は良いのか? 声出し確認でもしとけよ」
「問題無い」
「そうかい、改めて言うが俺はボリスって名前だ。勿論コードネームだけどな」
筋骨隆々な体に似合わない自分の銃をひとつずつ確認していたボリスは、エージェント御用達の、ベルトに収納出来るナイフを磨き始める。
ボリスはアサルトライフルのIMIガリルを愛用しているらしく、所々に癖が出ている様だった。
「二人で制圧しろとはな、上も無茶な事を言う様になったな。昔は戦闘と言えば最終手段で、目立った殺しなんてしなかったからな」
「別に、連係すれば問題ない。プロフェッショナルの俺たちがする、それが1番被害も出ないだろ。それともクイーンの決定に不満があるのか?」
「不満はねぇ、おい坊主」
俺を呼んだボリスはフラッシュバンを投げて、考えが汲み取れない俺に謎の笑顔を向けてくる。
それを受け取り、ピンの持ち手をベルトに引っ掛ける。
一瞬そっち系なのかと思ったが、あんなガタイの良い男となんて、考えただけでも吐き気がする。
腰に付けてあったコンカッショングレネードを外して、お返しとしてボリスに投げて渡す。
それを片手で受け取ったボリスは、笑顔で右手を軽く上げて礼を言う。
人を殺す武器を渡されて、笑えるヤツの気が知れないと思いながらも、自分はいつも銃のメンテナンスをしている。
それは人を殺す為であり、自分を守るものでもある。
だが俺は、そんな自分に嫌悪感を抱けずに居た。
何故なら、貧困区域で生まれた子どもは、人を殺してでも生きていかなけばならない。
それは生活の一部であり、日常でもあったから。
拾われた時から訓練をさせられ、人を殺す為に育てられてきた。
M029と言う名を貰い、MI6のエージェントにもなった。
そうして育てられては国外の情報を集め、死に物狂いで母国に持って帰る。
時に人を殺して情報を手に入れたり、人を殺して手に入れた情報を守ったりもした。
以前の仕事では他国のエージェントを殺し、その際には民間事業者まで巻き込んでしまった。
この生活が始まる前は、それなりに幸せな家庭で、普通の暮らしをしていたと思う。
こんなに曖昧なのは、単純にそのそれなりの生活の記憶が無いから。
「そろそろだ、これだけ近付くと迫力が違うもんだな。そろそろ準備しとけよM029」
ボリスの言葉を聞いて我に返り、右のホルスターに差してあったMK23を手に持つ。
サプレッサーを装着してから空に身を投げ、Iowaの甲板に落下する直前で紐を引き、背中で展開した人口筋肉に包まれ、衝撃を殺し切って着地する。
その異変に気付いた巡回の4人を素早く撃ち殺し.後続のボリスが着地したのを確認してから艦内に突入する。
効率化と戦力分散の為に二手に分かれ、それぞれ目的の場所まで一直線に走る。
「ナビゲーション」
雑音を奏でるのが得意な通信士のユージーンに言うと、直ぐに艦内のマップデータが送られてくる。
艦内の見取り図が目の前に浮かび上がり、自分を示した赤い点が角膜に映る。
地図に示されたルート通りに艦内を進んでいると、曲がり角の奥に巡回しているテロリストの姿が見えた。
手前にある通路に身を隠して、テロリストが近付いてくるのをじっと待つ。
地図の中で動く青い点はボリスの居場所を示すもので、息を潜めている自分よりも少し先に進んでいた。
角から体を出してテロリストの右目を正確に撃ち抜き、足音を盗みながら通路をまた進む。
足音を立てずに走って艦内を進み、容易に司令室の前まで辿り着く。
海上で襲われると思っていないのか、見張りは運良く居らず、ボリスももう少しで目的地に到着しそうだった。
「M029。そこが司令室だ、突撃しちまえ」
「中の状況は分かるか」
「分からん!」
「だろうな」
手元のドアノブに手を掛け、素早く捻って肩でドアを押しながら部屋に入る。
中に居た四人を素早く撃ち殺したが、奥に居た1人は、運良く弾丸が目の前のヤツの頭に当たって逸れる。
男が抜いた銃の銃口に手を添えて逸らし、右手を胸に当てる直前で捻り、心臓を確実に潰す。
その男が左手で証拠を潰そうと、机の上に手を伸ばしていた。
その机の上にはヨーロッパの地図が広げられており、ペンで航路が書かれていた。
画像で航路を送る為に前屈みになると、地図に赤い液体が小さな音を立てて落ちる。
「掠ってたか、画像を送る……今更手書きの地図か、データ化しなかったのは漏洩を防ぐ為。中々だが、こうも弱ければ意味が無い」
撮影した地図のデータを本部に送り、椅子に座ってボリスからの通信を待つ。
その間に腕の傷を止血しておき、残り3発のマガジンを変える。
「M029、そっちの状況は」
天井を見上げているとボリスから通信が入り、互いの状況確認を行う。
軍艦の自沈を防ぐ為に、船底を押さえる役割のボリスが、無事に爆弾を押さえたようだった。
「管制室は制圧した。操舵してイギリス軍港に届ける、ボリスは直ぐに……」
「クソっ!」
大量の銃声の後ボリスが叫び、何発か発砲音が聞こえて通信が途切れる。
「ユージーン、ボリスは」
椅子から立ち上がり、管制室から出て船底に向かって歩く。
一つ下のフロアに下りると、テロリストが二人一組で巡回していた。
「気付かれたか」
「ボリスに埋まっているASCの光が消えた。恐らくは……」
「分かってる、確認した」
侵入者を見つけ出そうと走り回る見張りを手際良く片付けながら、船底へと急ぎ足で進む。
艦内は徐々に慌しくなり、侵入者を見つけ出そうと船員総出で艦内を走り回る。
「居たぞ! 撃て撃て撃て!」
背後から弾丸が飛来して、体に鉄が突き刺さる。
ベルトのフラッシュバンを引っ張ってピンを外し、後方に投げて一気に通路を駆け抜ける。
通路の閉まり始めたシャッターをなんとかくぐり、船底に下りる階段に着く。
鉄で出来た階段を下りると、八人のテロリストの輪の隣にボリスが転がっていた。
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