ELIZA①

IowaからMI6本部に帰還後、体内の弾丸を手術して取り除き、撃たれた傷を癒す為に長期休暇が与えられた。

特に行く所も、一緒に出掛ける友人も居ない為、リビングで1人薬莢を机に並べる。


ひとつ置く度に。


コツ。


コツ。


コツ。


リムが机を叩く、心地好い無機質な音が部屋に響く。


「ケーキを食べに行こう……違う」


頭の中に思い浮かべたケーキを追い出して、先日のIowa制圧の際、壊れたMK23を机の上に置く。

コルトガバメントをスーツの中に隠して、ふらふらと自分の部屋から出る。


ドアの隣に取り付けられている液晶に手の平を当てて、文明に依存し切ったドアの鍵を施錠する。

目の前に表示されたテーマパークやショッピングモールの情報を手で退けて、時刻と体の情報だけにする。


「銃火器を取り扱う最寄りの店を表示」


壊れたMK23の代わりを探す為、Information Life Wizard Alchemyに検索ワードを投げ掛ける。

Lifeだけ頭文字の二文字を取ったELIZAの名の由来は、生活を便利にする情報を、魔法使いが錬金術の様に出す事をイメージして作り出した、人工知能プログラムだそうだ。


「ルート案内を開始します。本日の天気は晴れです、今日もお元気ですね」


角膜に地図と少女が表示されて、目的地の店に旗が立っている。

車通りの多い道を歩いていると、ウェストミンスター寺院が右手の方に見える。


以前王室の戴冠式で警備に当たっていた事があり、構造などを全て知り尽くしてしまった。

自分ならどう警備を潜り抜けるか考えながら、近くのルイシャム・ストリートに入って、民家と民家の間の通りに入る。


裏路地に入ってマンホールを開け、狭い穴の中に体を滑り込ませる。

ハシゴを降りて店の入口に着くと、黒服を着ている男が2人立っていて、片方に止められる。


「MI6エージェント、コードM029」


データ化すると、漏洩した際に悪用される可能性がある為、エージェントである証拠の手帳を見せる。

それを確認した男は、何故か戸惑いながら店の中に通してくれる。


店の中に入ると、壁には様々な銃が飾られていた。

第一次世界大戦に使われていた骨董品や、珍しいストームシリーズまで揃っている。


「どれが良いんだね」


端から順に見ていくが、これと言ったものが無いと思っているのを感じたのか、店主が問い掛けてくる。


「やっぱりベレッタ92Fじゃないか? お客さんの背丈なら何でも使いこなせるだろうけどよぅ」


「ベレッタも良いがMP-433にする、ここにMK23は置いてないのか?」


俺の言葉を聞いた店主は、ベレッタとMP-433を出す。


「MK23は置いてないな、ちょっと前まではあったんだけどよぅ」


「そうか、口座残金」


「はい、バークレイズの口座は八億二千万。ロイズの……」


「どっちも買う」


カウンターに置いてある液晶に手をかざして、何か聞かれる前に早々と会計を済ませる。


「は、八億って……兄ちゃん裏の仕事でもやってるのか? ここに来るのは精々テロリストくらいだぜ」


「おい、表の警備は何だ」


「んぁ? 警備なんて付けてねぇよ、この店知ってるのはそう言う奴らばかりだからな。俺を殺しゃ銃が手に入らなくなる、困るのはあっちだよ」


「……まあ良い、弾はこの住所に送ってくれ」


付属していたマガジン3本と銃を持って店を出る。

消えていた2人を見回して探すが、下水の通路に足音などは聞こえない。


匂いが着く前に早く去ろうと足早に歩き、頼りない梯子を上がっていく。

押し上げたマンホールからよたよたと這い出ると、先程入口に立っていた不審な2人組が居た。

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