第4話

重いドアを開くとそこは広い普通の喫茶店だった。


しかし、所々気になる物が置いてある。

例えば今から約二十年前のグラビアアイドルの写真。

白い歯を見せて笑いかける見たこともないアイドルのポスター。

妙に気持ち悪い顔をした招き猫。

カウンターには無数の酒。

夜はバーにでもなるのだろうか、なんてふと思う。


「いらっしゃい」


店のマスターらしき人が決まり文句を放った。



「マスター、新人連れてきた」

「え」

「そこの兄さん、こっちに来て」



言われるがまま俺はカウンターに座る。


やたらでかい図体をした巨漢の男。

そんな見た目とは裏腹に顔は温厚そうである。

いや、人は見かけによらぬと言うではないか。

騙されてならぬ、と暗示をかけながら

刹那、巨漢の男は語り出す。


「何が起きたか、わからんだろう」


「あ、はい」


いかん、声が裏返った。

動揺が声にまで出るだなんて男としての恥である。


「ここは林檎堂、訳ありな奴らが集う喫茶店であり、バーなのだ」


「へぇ」


「そして、もう一つは家、だ」


「家?どういうことです」


「訳ありな奴らが集うと言っただろう。全くその字の通りでな

ここ林檎堂は変な奴らが住んでる」


「住んでるって言うか養ってるクセに」


黒髪の女が煙草を吹かしながら猫のように呑気に語る。

うるさいぞ、と巨漢の男が嗜める。



「俺はここで訳ありな奴らと一緒に住んでるんだ。

どんな事情であれ、家族は家族」


「そこに死にかけた顔したアンタがいたから拾ってやったの」

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