第2話 金集めと合法ロリ

王城から逃げてきた悠は、一人城下町をぶらついていた。

なぜ兵士達に追われる事が分かっているのに、すぐに城下町から逃げないのかそれは金が無いからだ。

城下町から近くの村までは歩いて2日は掛かる。

ログアウトも出来ない状況で、食料もなく魔物のうろつく外を歩き回るのはさずがに、王城から逃げ出せた悠でも遠慮したいのだ。

ズボンのポケットには財布があり、いくらかは入っているがこの世界で使えるかは分からない。

出店の値札を見るに、ゲームと同じでコルと言う単位で売買されている。


「さすがに円(えん)は使えないよな。ログアウトの仕方もわからんし……。まぁまずは金を手に入れるか」


そう言うと、悠はおもむろに鞄から一冊のノートを取り出す。

ノートには、攻略情報から雑貨の値段や豆知識、裏情報などがびっしり書き込まれていた。


「えーと。手っ取り早く稼ぎたいけど、目立つのは嫌だからな。あ、これなんか良いかも」


稼ぐ方法に目星を着け、ノートを鞄にしまいながら迷わず大通りを進んでいく。

大通りから脇道に進み裏路地をしばらく歩いていると、一つの古びた洋館にたどり着く。

人通りを確認して柵を乗り越る。庭は雑草がびっしりと生え林みたいな状態になっており洋館の玄関までたどり着くのに一苦労だ。


「マジかよ。こういうの嫌いなんだよな。虫とかいないよな?」


草をかき分け洋館の玄関までたどり着き、そこで足を止め気配感知スキルを使い気配を探り、中に誰も居ないことを確認する。

気配感知スキルに反応はなく、どうやら中には誰も居ないようだ。


「はぁ~、もうやめたくなってきた。

……まぁここまで来たらやるしかないからやるけど」


後ろを振り返り、帰りの事を思いながら愚痴る。

一言愚痴ると玄関の扉の鍵を開錠スキルで開け中に侵入する。中は人が入った形跡がなく埃が積もっていた。

再び鞄からノートを取り出し、洋館の地図を確認して進んでいく。


「地図によるとこの先に、暖炉がある部屋があるはずなんだけど……おっこの部屋だな」


暖炉がある大きい部屋へとたどり着いた悠は、さっそくとばかりに暖炉を調べていく。

煤を吸い込まないように気を付けながら暖炉を調べると、暖炉の奥に隠し扉があるのを見つける。


「この扉の先にあるはずだ」


扉を通るとそこには、狭い小部屋になっており中央には箱が置いてあった。

悠は、箱に駆け寄り中に入っている物を確認する。


「よっしゃ! 3000コルゲットだぜ!」


箱の中には、30枚の大銅貨が入っていた。

この世界のお金の単位はコル。使われている硬貨は鉄貨、銀貨、大銅貨、銀貨、金貨の5種類だ。

価値的には、1コルが日本の1円と考えるのが簡単だろう。

それぞれ一枚で鉄貨は1コル、銅貨は10コル、大銅貨は100コル、銀貨は1000コル、金貨は10000コルとなる。


なぜ、こんなところにお金が置いているかと言うと、

ゲームの頃この古い洋館には、一人一回限りだが初心者用としてクエストが設定されていた。

『古い洋館の幽霊調査』

町のある住民に、声を掛けると洋館の詳細を教えてくれる。

住民と話をしていくとその洋館で幽霊を見たので、その正体を調べてくれないか? というクエストを受けることが出来るのだ。

正体自体はただの見間違いなのだが、正体を調べていくうちに暖炉の奥に隠し部屋があるを発見出来るようになっており、隠し部屋には宝箱が置いてあるという。いたって簡単なクエストだ。


悠はゲームをプレイしていた時は、冒険者登録して外でモンスターを倒してお金を稼いでいた。

モンスターを倒したほうが、お金はもちろんスキルの熟練度を上げる事が出来るのでわざわざ町の中でお金を稼ぐ方法を使わなかったのである。


「よっしゃ――!! クエストやんなくて良かった!この調子でどんどん金集めるぞーー」


帰りの雑草のお生い茂る林の事など忘れテンション高めで盛り上がる悠。

洋館の玄関から出るまでは、テンション高めだったが目の前の林を見た瞬間一気にテンションが下がるのだった。


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空も暗くなって来た頃、悠の姿は宿屋の中にあった。


(よし、これで金の問題は解決だな。明日は食料と装備を買って城下町からもおさらば出来る)


今は明日の予定を考えながら、ベットの上でごろごろしている。

あれから二つ三つクエストをこなして、今では所持金9000コルを超えている。

普通一日でそれだけ稼ぐのは無理だろう。悠には、情報をまとめたノートがあったからこそ集められたものだ。ノートさまさまである。


(まずは装備だよな。武器屋は冒険者のために朝早くからやってるし)


(食料はどうするかな……まぁ適当に、保存の効きそうな物を買えば良いか)


(あとは、村まで2日掛かるからテントと……。他には何が必要だ?)


ゲームだったら、徹夜でプレイしても疲れるのは精神のみで肉体的な疲れは感じなかった。

ましては町の中を歩き回った位で、こんな疲れるとは思ってもみなかっただろう。

改めてこれがゲームではなく現実なのだと思い知らされた感じだ。

現実だと実感が出てくると、一日中兵士に監視され城の一室で幽閉される事が決まっている王城から逃げて正解だったと思えてくる。


コンコンコンコン


考え事に集中していると扉がノックされる。


「ユート、夕食の準備が出来たぞ。食堂まで来てくれ」


どうやら宿の店主が、夕食の声掛けに来たようだ。

兵士の目を逃れるため、念のためユートという偽名で泊まっている。


「はい、わかりました。今行きます」


本当は部屋まで持ってきてもらい一人で食べたかったが亭主に疑問に思われるのを避けるため、食堂で食べることにしたのだ。

軽く身支度を済ませ鞄を持って食堂に向かった。

食堂に入ると2、3人がすでに席で夕食を食べているところだった。

悠は空いている席に座るとすぐに料理が運ばれてくる。


「ごめんな坊主、こんな物しか出せなくて」


運ばれてきた料理はビーフシチューとパンだけだった。


「最近じゃ、魔王のせいで仕入れもうまくいかないし物価も上がってきててな。これだけしか出せんのだわ」


「魔王のせい?」


「なんだ坊主知らねえのか? 魔王が従えてる魔族がいるだろ。そいつらが商人の馬車を襲ったりしてなかなか物資が入ってこねえんだよ。それで夕食って言ってもこんなもんだ」


「そなんですか。それは大変そうですね」


「大変なんてもんじゃないぜ。外から人も来ないから宿に泊まる客も減る一方だし……まぁ坊主に愚痴ってもしょうがないか、それよりも料理の味は保証するから味わって食ってくれ」


「はい、それじゃ期待させてもらうかな。いただきます」


店主が豪語するだけありビーフシチューは絶品だった。

パンも焼きたてでもちもちしておりビーフシチューを引き立てていた。


「ごちそうさまでした。はーうまかった」(機会があればまた食いにきたいな)


量も少ないことからすぐに食べ終わってしまった。

それからお茶を飲みながら、ビーフシチューの味の余韻に少し浸ってから食堂を後にし部屋へと戻った。

部屋へと戻るとベットに倒れこむ、明日は朝早くから移動を開始しようということでそのまますぐに眠ってしまった。

旅に必要な物を考えていた事など、ビーフシチューの旨さで忘れて。



次の日、朝早く目覚めた悠は身支度を手短に済ませ部屋を出る。

宿屋のカウンターには、早朝にも関わらず店主が居た。どうやらこの時間よりも前に起きていて、仕事を始めているようだ。


「おはようございます。朝早くから忙しそうですね」


「おう、おはようさん。冒険者達の朝は早いからなそれに間に合うようにやってるだけだ。もう慣れたよ。ところでおまえさん、朝食はどうする? 食うか?」


「いえ、準備もありますのでもう出ようと思います」


「そうか、何をするのかわからんが気を付けて行ってこいよ。近くに寄ったらまた泊まってくれ」


「はい、ありがとうございます。それじゃ行ってきます。お世話になりました」


「おう」


気の良い店主と別れの挨拶を済ませ宿屋を後にする。

気兼ねしなくてもいい態度の店主がやっている宿屋だ。魔王の被害さえなければ冒険者の間でさぞ繁盛していただろう。


(魔王の被害って結構出てるんだな。どうにかなんねぇのかな。まぁ逃げた俺が考えてもしかたないか)


そんな事をちらっと考えるが、考えてもしかたがないのですぐに考えを霧散させる。

それよりも目下目的である装備を整えるためノート片手にまずは武器屋へと足を向ける。

武器屋へ向かいながら昨日宿屋で確認した。自分のステータスやスキルを思い出していく。


 ******


敷島 悠(しきしま ゆう)

性別 男

年齢 17歳

種族 人間、異世界人

職業 盗賊

ユニークスキル

 インプラァカァブル・シーフ

スキル

 アサシンアタック・ブラックスモーク・トラップ発見・トラップ設置

 短刀術・窃盗・スリ・恐喝・気配感知・開錠・隠者(いんじゃ)の歩・投擲・忍び足・逃走成功率上昇

 状態異常耐性


 ******


これが今の悠のステータスだ。一番の注目はやはりユニークスキルの、インプラァカァブル・シーフだろう。

英雄の腕輪でスキルの効果も確認済みだ。


インプラァカァブル・シーフ

直訳で『冷酷無情な盗賊』……半径1Mの対象一人のステータス・スキルを盗む。直接触れている場合、HPとMPも盗む事が可能になる。相手のレジストの高さによって成功率は変わる。盗んだステータス・スキルは、戻すことはできない。自分のステータス・スキルの熟練度獲得率が100分の1になる。


(このスキルが一番キチガイ仕様だよな。なんだよステータスとかスキルを盗むってそのなんありかよ)


ユニークスキルが性能の良い物になることはたまにある。

しかし悠のユニークスキルはデメリットもあるのだが、それを差し引いてもメリットの方が遥かにでかい。

他のスキルは、逃走や隠密な部分がでかい分戦闘になるとすこし弱く感じる。


(戦闘になりそうなら逃げるの手だしな。どうにかなるだろ)


再度ステータスの確認を行いながら歩いていると、大通りに面した一角に武器屋を見つけることが出来た。

店の中を覗くと武器屋というより武器・防具・道具・マジックアイテムなど雑多に売っているようだ。

さすが冒険者向けの店だ。早朝であるのにも関わらず開いており、何人かの人が商品を見ているようだ。


「いらっしゃいませ。今日は何をお探しでしょうか?」


店の店員が目ざとく悠を見つけ声を掛けてくる。


「いや、探してはいるんだが自分で見て周るから大丈夫だ」


「そうですか。それでは何かありましたらお声をおかけください」


店員は軽くお辞儀をしてから、カウンターに戻っていった。

その姿を見送った後、悠も商品を見るため動き出した。

あまり時間を掛けたくなかったので武器・防具・道具はすぐに決めたのだが、悠は一つのショーウィンドウの前で動きを止めていた。

何を見ているかと言うとショーウィンドウの中には、マジックアイテムが並べられている。


(欲しい。あのマジックアイテム欲しい)


悠の目は、一点を見つめて動かない。

悠が見ている物、それはライブラの水晶というマジックアイテムだ。

並べられているマジックアイテムの中でも、一番厳重に保管されているのがライブラの水晶だ。

値段は、10億コル。

マジックアイテムにはスキルが付与されている。

ライブラの水晶に付与されているのは『ライブラ』相手のステータスを見る事が出来るスキルだ。


(これがあれば、インプラァカァブル・シーフが百倍使いやすくなるのに)

(でも10億コルってどう考えても売る気ないよな)

(あーマジで欲しいな。このスキル)

(盗もうと思えば、スキル使ってどうにか盗めるけどこんなところで堂々と盗んだら捕まるだろうな)

(でも…………盗む?)

(そっか! インプラァカァブル・シーフ使えばスキル盗めるんじゃ? しかもスキルだけ盗めば、ばれる心配はないはず)


さすが職業盗賊。金を貯めて買うことは頭にはない。

周りを見渡し、店員達の視界が外れた瞬間にインプラァカァブル・シーフを発動する。

別に見られていても問題はなかったが、やはりやましい事をしていると思う人間の心理なのだろう。

発動した時、ライブラの水晶から水色の輝きが消える。


 ******


敷島 悠(しきしま ゆう)

スキル

 ライブラ


 ******


問題なくスキルは盗めたようだ。

悠は、店員に怪しまれないように速足でカウンターに向かい武器などの会計を済ませ店を出ていく。

店を出て路地裏に真っ直ぐ向かう。

路地裏にたどり着いた瞬間、喜びのあまり声を上げてしまう。


「よっしゃ! うまくいった。物からでもスキルって盗めるんだな」


声を上げてから、ハッと我に返り辺りを見渡し誰も居ないことを確認する。


(浮かれ過ぎだな。周りも確認しないで、盗んだなんて言っちまった)


自信の行動を振り返りながら、大通りへと戻ろうと歩き出す。


「ねぇねぇ、お兄さん。盗んだって何を盗んだの?」


歩き出すといきなり背後から声が掛けられた。

悠はすぐに振り返る。

振り返るとそこには、14歳位だろう年齢の少女が立って悠を見つめていた。

少女の背は低く130㎝程度、髪の色は茶色、顔は童顔で耳は少し尖っているように感じる。


「別に何でもない。気にしなくて良いから」


「えーそんな事言っても気になるよ。昨日も廃墟に行ったり、洞窟の中に入って行くの見たよ」


「なんで昨日の事を知っている!?」


「なんでって昨日、お兄さんの事ずっと見てたんだよ。気付かなかった?」


「お前は誰だ。なぜ俺を見ていた」


悠は、会話をしながらアライブを使い少女のステータスを盗み見る。


 ******


ミランダ

性別 女

年齢 103歳

種族 ハーフエルフ

職業 冒険者

スキル

 短刀術・気配感知・投擲・応急救護・状態異常耐性

 火魔法・水魔法・土魔法・光魔法


 ******


「それは、嫌でも」


「な!?」


「お兄さんどうしたの!?」


少女が驚いたように目を大きく開き問いかける。


「いや、なんでもない気にしないでくれ」


悠は、少女の年齢を見て驚きの声を上げてしまった。

少女の見た目は、どこからどうみても14歳位にしか見えない。

だがアライブで確認した年齢は103歳、あまりにも年齢と見た目がかけ離れている。


(アライブの鑑定が間違っている? いや、そんな事がありえるのか?)


「そうなの? まぁいいや。でさっきの話だけど、お兄さん自分の恰好気にしてる?」


「恰好?」


「そう。その恰好。この国じゃそんな服着ている人いないよ。それじゃ目立って仕方ないよ」


悠は学校にいる時に、そのまま転移してきたので服は制服(学ラン)のままだった。

たしかにファンタジーの世界に制服(学ラン)を着た者は、そうはいないだろう。たぶんいない。


「しかも、城で異世界の人を召喚して魔王を倒すのをお願いしたって噂もあるし」


「そうか。それで……」


宿屋の店主が気さくに声を掛けて来たのも武器屋の店員が目ざとく声を掛けて来たのも、悠の恰好をみたからなのだ。

噂を聞いてこの恰好を見たら、それは異世界から来た人物であると思うはずだ。


「噂ってどんなのなんだ?」


もしかしたら自分が城から逃げた事も、もう町中に知られているのではないかと思ったのだ。


「んーとね。私が聞いたのは異世界の人にお願いしたって事だけだよ」


「そうか」


この少女以外は、わからないがまだ悠が逃げた事は広まっていないようだ。

たぶん国王あたりが手を回して情報が漏れないようにしたのだろう。


「で、お兄さん。盗んだって何を盗んだの? 場合によっては兵士さんを呼んでくるよ~」


「そこに話がもどるのか……。なんでもないって言っても信じないよな」


「うん、今更信じらんないよ。お兄さんは異世界から召喚された人だってわかるもん」


「わかった、話そう。と、その前にお前の喋り方は素なのか? あとお兄さんもやめてくれ」


「やっぱ分かるんだ。さすが異世界人!

そうだね。喋り方はあえてこうしてるかな。だってこんな見た目だしね」


「さいですか。じゃあ、今から説明してやる。だがこの話は他言無用だぞ」


恐喝スキルを使って少女に脅しを掛けてみる。


「わー怖い顔して、女の子をいじめるよーー」


恐喝など、どこ吹く風。まったく堪えてないようだ。

悠は内心でため息を吐いてから、いままでの出来事を少女に説明するのだった。

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