第七話 期末テスト終了記念 みんなで一緒にルミナリエ
「修くん、見て、見てーっ。すごく良い点取れたよーっ。先生にも褒められたぁーっ」
「オサムっち、アタシもめっちゃ上がってた。もう全教科返って来たぜ」
翌日金曜日夕方、修は望月宅に入るや否や、数歩と絵梨佳が玄関に駆け寄って来た。返却された答案用紙を自信満々に見せ付けてくる。今日は他の塾生達もすでに全員揃っていた。
「……本当に、ずいぶん上がったね。すごいよ」
修はかなり驚いていた。
「絵梨ちゃんも数歩も、今までの最高点よ」
満由実さんも少し驚いていた様子。
数歩の取得した数学の点数は84点、理科は79点だったのだ。その他の科目についても、中間テストの点数よりも少し上がっていた。
絵梨佳の取得した点数は国語82点、数学68点、理科71点、社会86点、そして英語は78点。全て平均点以上だった。副教科は美術以外、平均点を下回っていたが。
「わたしの予想した以上の出来でしたよ。わたしも、中間以上にばっちりでした。結果が楽しみです」
藍子はとても嬉しそうだった。
「ワタシも、今回はよく出来ました。五教科で、初めて四五〇点を超えられました」
晴恵も照れくさそうに、答案を見せに来た。
「おめでとう、ございます」
修は祝福の言葉を述べる。
「あたしも久しぶりに百点取れたよ、算数と国語で」
紗奈も、単元別テストを見せに来る。
「おめでとう、ございます」
再度、修から祝福の言葉。
「私がこんなに良い点取れたのも、修くんのおかげだよ」
「オサムっち、サンキュー」
数歩と絵梨佳が手を握り締めて来た。
「いや、僕の力では決して……二人とも頑張っていましたし、藍子さんや、満由実さんの指導の方が……」
修は照れくさそうに謙遜する。
「いえいえ、修先生が一緒だったことで、数歩さんや絵梨佳さんのやる気を引き出すことが出来たと思うので」
「そうよ修ちゃん。ワタクシだけの力では、絵梨ちゃんの成績を上げることは無理だったもの。絵梨ちゃんの成績アップに一番貢献したのは、修ちゃんよ」
藍子と満由実さんも謙遜した。
高校生の藍子も今日で期末試験を無事終えて、今からは、みんなで教室の大掃除。
掃除機をかけ、消しゴムのカスなどを取り除き、雑巾で机の上や窓を拭く。
そのあと期末試験終了記念に、みんなで今夜から神戸で始まるルミナリエを見に行くことになった。数雄はやはり参加を拒否。
JR元町駅の南側、旧居留地仲町通りから東遊園地にかけて、美しく光り輝くイルミネーション。
ここがルミナリエのメイン会場だ。みんなは順路を伝ってその中を通り抜けていく。
「僕は十数年振りに見に来ましたが、やっぱり、今でも相当混んでいますね」
「とってもきれいだけど、歩きにくーい」
「ここの人口密度、きっと昼間の渋谷以上ね」
「転ぶと大変。気をつけて歩かなきゃ」
「満員電車状態だな。コミケはもっと凄そうだけど」
修、紗奈、藍子、晴恵、絵梨佳は非常に窮屈そうにしていた。
「いつもの年より、ちょっと少ないかも」
「今年はマシだよね」
毎年見に行っている満由実さんと数歩は、混雑にも慣れているようだった。
「修お兄ちゃん、あたし迷子になっちゃうかもしれないから、手を繋いで」
「わっ、分かり、ました」
紗奈に頼まれると、修は緊張しながら引き受けてあげた。
「アタシとも繋ごうぜ、オサムっち」
絵梨佳からもう片方の手を握られる。
「あっ、あのう」
修のドキドキ感はさらに上昇した。
「あっ、ずるぅーい」
数歩は羨ましがる。
「これを見るたび、震災当時の神戸の姿を思い出すな」
メイン会場終着地、東遊園地内にある阪神淡路大震災慰霊と復興のモニュメントを眺め、満由実さんはしみじみと語り出した。
「あの当時、この辺り壊滅していましたね」
同じく経験者の修も思い出を巡らす。
「神戸のルミナリエは、震災犠牲者の鎮魂と、神戸の復興再生を願って始められたものだと、わたしは学校等で教わりました」
「震災のあった一九九五年一月十七日。アタシまだ生まれてないぜ」
「神戸だけじゃなく芦屋、西宮、伊丹、宝塚、明石、淡路島とかでも大きな被害が出たんだよね」
「あたしが五年生の時使ってた社会科の資料集に、潰れた阪急伊丹駅の写真が載ってたよ」
「ワタシもお母さんやお父さんから当時の話を何度も聞かされました」
塾生達は口々に呟く。
今の塾生達は全員、阪神・淡路大震災後に生まれた。震災直後の神戸の姿は、写真や映像でしか知らないのだ。
望月舎へ帰っていく途中、満由実さんはそんな塾生達に、当時の自分の体験を話してあげたのであった。
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