第三話 GWは娯楽施設で大はしゃぎ

五月一日、土曜日。大型連休の初日、清清しい五月晴れ。神戸の予想最高気温は25℃と夏日の予想。

今日は、昔遊び同好会の四人でショッピングを楽しむことになった。

誘ったのは竹乃。スマホで三人と連絡を取り合って、待ち合わせ場所や集合時間を決めた。昔のものに触れることの多い竹乃も、現代の利器は日頃から愛用しているのだ。

「まずは服見に行こう。うち、夏服買いたいねんよ」

近隣の大型ショッピングモールへやって来た四人。

竹乃の希望により、さっそく二階レディースファッションコーナーへ。売り場がある五階へはエレベータを使った。

「果歩は、まだまだブラジャー必要ないね」

 竹乃は果歩の胸もとを眺めながらつぶやく。

「たけちゃん、ひどーい。私も近いうちに使うようになるもん!」

「ミツリンもまだ必要ないよ」

「わたしと果歩ちゃんは、お胸はもちろん、背丈も仲間だもん」

光子は嬉しそうに言った。彼女も身長は一四〇センチしかなく、果歩と同じく小柄で今でも小学生に間違えられることがよくあるらしい。

「これにしよう!」

竹乃は鶯色の半袖ワンピースを選んだ。この色が彼女一番のお気に入りなのだ。

「あ、この服、カホミンにめっちゃ似合いそう」

 栞は隣接のキッズファッションコーナーに売られてあった、かわいらしいタヌキの刺繍がなされたお洋服を手に取り、果歩の目の前にかざした。

「しーちゃん、それ、幼稚園の子向きでしょ。私が着るの、めちゃくちゃ恥ずかしいよ」

「まだまだいけるって! サイズ大きめのやし」

「えー」

「ワタシがおごるからさー」

果歩は嫌がるも、栞はレジへ持っていった。竹乃の分も栞がおごってあげた。

「しーちゃん、私、そんなの絶対着ないからね」


「あ、もう十二時半過ぎやん。そろそろ昼飯にしようぜ!」

栞は、エレベータ内でスマホの時計を眺めた。

「そうやな。うちもお腹すいてきた」

 四人は四階にあるレストランへ。

「奥のテーブル席へどうぞ」

 ウェイトレスにご案内されたイス席に座り、荷物を横に置いてホッと一息ついたところで光子はメニュー表を手に取った。

「この中からどれでも好きなものを選んでね。お値段は全然気にしなくていいよ。全てわたしのおごりだから。わたしは天丼食べるよ。飲み物はレモンスカッシュにしようかな」

「さすがミツリン。ほんじゃワタシも奮発してステーキ定食! 飲み物はメロンソーダな」

「うち、石焼きビビンバとジンジャエール」

 竹乃は好みの辛いものを注文した。

「あの、私、お子様ランチが食べたい。飲み物はバナナジュースで」

 果歩は顔をやや下に向けて、照れくさそうに小声でポツリと呟いた。

「やっぱ出たね、果歩の外食時恒例メニュー。中学生になってもまたお子様ランチ頼むんやね。年齢制限十一歳までやけど別に問題ないってのが羨ましいな」

 竹乃はにこっと微笑みかけた。

「お子様ランチかぁ。カホミン、未だに食べたがるなんてかわいいとこあるな。ワタシは小三で卒業したけど」

 栞は果歩の頭をそっとなでた。

「さすがにちょっと恥ずかしいんだけどね、私、どうしても食べたいの……」

 ますます照れくさくなったのか、果歩のお顔はさらに下を向く。

「果歩ちゃん、わたしもつい最近まで頼んでたから、全然恥ずかしがることはないよ」

 光子はボタンを押してウェイトレスを呼び、それらを注文した。

「……それぞれお一つずつですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

 ウェイトレスは確認し終えると爽やかスマイルでそのままカウンターへと戻る。果歩のことを全く疑っていないようだ。

 

「お待たせしました。お子様ランチでございます。それとお飲み物のバナナジュースでございます。はいお嬢ちゃん。ではごゆっくりどうぞ」

 果歩の分が最初にご到着。新幹線の形をしたお皿に、旗の立ったチャーハン、プリン、タルタルソースのたっぷりかかったエビフライなど定番のものがたくさん盛られている。さらにはおまけのシャボン玉セットも付いて来た。

さらに一分ほど経ち、他の三人の分も続々運ばれて来た。

四人のランチタイムが始まる。

「エビフライ、私の大好物なんだ。いただきまーっす」

 果歩は尻尾を手でつかんで持ち、豪快にパクリとかじりついた。

「美味しい!」

 その瞬間、果歩はとっても幸せそうな表情へと変わる。

「果歩、あんまり入れすぎたら喉に詰まらせちゃうかもしれへんよ」

「モグモグ食べとうカホミンって、なんかアオムシさんみたいですごくかわいいな。わたしのも少しあげるよ。はい、あーんして」

 栞はビーフステーキの一片をフォークに突き刺し、果歩の口元へ近づけた。

「ありがとうしーちゃん。でも、ちょっと恥ずかしいな。このお皿の上に置いといてね」

 果歩のお顔は、ステーキの焼け具合で表すとレアのように赤くなっていた。

お会計は三千八百六十円。約束どおり、光子が全額支払ってくれた。

「次はどこに行きたいですか?」

「みっちゃん。私、ちょうど見たい映画があるの。映画館行こう」

「分かった」

「前々から果歩が楽しみにしてたあれやな」

 それは、本日公開されたばかりのキッズ向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。

 四人はショッピングモールに併設されているシネコンへ。売店でポップコーンを購入してからお目当ての映画が上映される3番ホールへ入場し、中央付近にある座席に並んで腰掛けた。


「たけちゃん、とっても面白かったね」

「うん。子ども向けに作られたアニメって、いくつになって見ても面白いな」

「わたしも子ども向けアニメ大好きなの。アン○ンマンとかド○えもん、今でも毎週欠かさず録画もして見てる」

「やっぱあれ、ワタシには合わないよ。飽きて来ちゃって後半爆睡してた」

上映時間一時間ちょっとの映画を見終えて、栞以外の三人は大満足していた。

「しーちゃん、もったいないよ。最後の方が特に面白いのに」

「ゴメンなカホミン。ワタシは、深夜にやっとうもうちょい大人向けの方が好きやな」

「えっ!? 深夜でもアニメって放送してるの?」

 果歩はあっと驚く。

「果歩、そういうやつはべつに知らんでもええよ。ホラー系のばかりやし」

 竹乃は口を挟んだ。

「そっ、そうなんだ。じゃあいいや」

「…………」

 栞は何か言いたそうにしていたが、光子が背後から口をふさいで阻止。

最上階からエスカレータを使って下の階へ降りようとした矢先、

「みんなちょっと待って、エレベータにしよう」

 果歩は昇降口付近で立ちすくんだ。

「あのね、じつは私、下りのエスカレータは怖くて乗れないの。私ちっちゃい頃ね、足を取られてズテーンって勢いよく転げたことがあって」

「わたしも果歩ちゃんの気持ち、よく分かるよ。わたしも小学校の頃まで乗れなかったの。タイミングが難しいよね」

「ほんじゃカホミン、ワタシが手をつないであげるね」

 栞は果歩の右手をつかむ。

「ありがとう、しーちゃん。私それなら乗れるよ」

四人はエスカレータで七階まで降り、そのフロアにある大型書店へ立ち寄った。

「ちょっとアニメ雑誌立ち読みしてくる。みんな好きなとこ見てていいよ。三十分くらいしたらここに集まってな」

 竹乃は集合場所として、エスカレータから一番近い所にある一般書籍新刊コーナーの所を指定した。

 

そして三十分が経過した。

「あれ? 果歩はどこいったんやろ? はぐれちゃった」

「来ないね。おーい、カホミン」

さっきまでの間、栞はコミックコーナー、

「果歩ちゃーっん。どこですかーっ?」

 光子はサイエンス系雑誌コーナーにいた。

「まさか……」

 竹乃がそう発した次の瞬間だった。

ピンポンパンポン♪

と、チャイム音が流れた。

〈迷子のお知らせです。灘区からお越しの武貞竹乃様。安福果歩様と申される……十二歳のお嬢ちゃまをお預かりしております。お心当たりの方は、七階迷子センターまでお越し下さいませ〉

「……やっぱり。そうしたか」

 竹乃は苦笑いした。

「カホミン、えらいなぁ。にしても迷子センターに中学生とは――」

 栞は腹を抱えて大笑いした。

(わたしも人のこと言えないかも。急に一人ぼっちになっちゃったら駆け込んじゃいそう)

 光子の今の心理状況。

「うっ、うち、引き取りに行ってくる。なんかこっちが恥ずかしいわ」

 竹乃一人で向かう。この場所からわずか三〇秒ほどでたどり着いた。迷子センターは、書店のすぐ隣にあったのだ。

「果歩、迎えに来てあげたよ」

「あっ、たけちゃんだ!」

 果歩は竹乃の姿を目にすると、すぐさま抱きつきに行った。

「たけちゃあああん、会いたかったよーっ」

「……あのな、果歩」

 竹乃は照れくさそうな表情をしている。

「絵本のコーナーとか児童図書のコーナーのとことかうろうろしてたら、みんな急に姿が見えなくなっちゃって困ってたの。みんなと逸れたら、すぐに迷子センターへ駆け込みなさいってお母さんに言われてるもん」

「でも、中学生がすることやないで。スマホ使ったらすぐに連絡取れるやろ?」

「あっ、そうか。次からはそうするね」

 果歩は笑顔で話す。

「いや、迷子にならんといて」

「うん。気をつけるよ」

係の人は、このやり取りを見てにこにこ微笑んでいた。


「おかえりカホミン」

「果歩ちゃん、おかえりなさい」

 栞と光子に温かく迎えられ、

「ただいましーちゃん、みっちゃん。私、あそこにいた子の中では一番背が高くて、大きなお姉さんになれたよ」

 果歩は嬉しそうに、誇らしげに語った。

「良かったなぁカホミン」

「とっても楽しかったよ、迷子センター。飴玉ももらえたし」

「うちは、はよ逃げ出したい気分やったよ。まあこれで一件落着やな。さて、そろそろ帰ろか」

四人はショッピングモールから外へ出た。

「あっ、雨降っとう。うち、傘持ってきてへんよ」

 朝の陽気とは打って変わって、空は鉛色になっていた。

「カタツムリさんは喜びそうだね」

果歩がにこにこ顔でそう呟いた直後、四人の目の前をピカピカピカッと稲光が走った。そのさらに約一秒後、ドゴォーンっと耳をつんざくような爆音が鳴り響いた。

「きゃーっ!」

 果歩は反射的に竹乃の背中にしがみ付く。

「どないしたん? 果歩」

「たっ、たけちゃん、もう一回中入ろうよう」

 果歩は今にも泣き出しそうな表情で言った。

「カホミンは雷怖いんやね」

 栞はにんまりと微笑む。

「うん、大嫌い」

 再度お店の中へ入った四人は、三階おもちゃ屋さんへ立ち寄ることに。

「あっ、あれは――」

 入った途端、果歩はあるものが目に付いた。それに向かってタタタッと走り出した。

「私、このぬいぐるみ、ずっと前から欲しかったんだ。でもいつも品切れで、期間限定生産だし、もう手に入らないなって諦めてたの」

 果歩は両手で持ち上げて感触を確かめてみる。

「これは、つい先ほど再入荷されたばかりですよ」

 店員さんはそう申された。

「買います!」

 果歩は目をキラキラ輝かせながら告げた。その商品は、残り一つだけだったのだ。

「ウーパールーパーのぬいぐるみさんか。果歩ちゃん、わたしが払ってあげるよ」

「いやみっちゃん、それは悪いよ。お母さんからもらったお小遣いで買うよ」

 果歩は商品を抱きかかえ、一目散にレジに向かう。

「二八〇〇円でございます」

 財布から取り出し、支払った。

「よかったな、カホミン」

「うん!」

満面の笑みを浮かべる。果歩は今、幸福感の絶頂にあった。もし、雷が鳴っていなかったら手に入らなかったであろう宝物。果歩の嬉しさは一入なのだ。

「そろそろ止んだかも。出よっか」

このお店付近を三十分ほどうろうろしたのち、光子は告げる。


「うー、寒いよう」

 果歩は外へ出た途端、ガタガタ震え出した。

「天気はようなったけど、なんか急に気温下がったな。うちもちょっと寒いわ」

「寒冷前線が通過したみたいね。10℃近くは下がってるかもしれないよ」

 光子は冷静に分析する。

「そうや! カホミン、あの服着るか?」

 栞は嬉しそうに尋ねた。

「うん。寒いから仕方がないや」

 果歩は照れくさそうに、薄手の長袖の上からその服を着込んだ。

「あったかーい。しーちゃん、とっても素敵な服、買ってくれてありがとう」

「いやいや、どういたしまして」

 栞はちょっぴり照れてしまう。

「明日もみんなでどっか遊びに行かへん?」

 竹乃の誘いに、三人とも大いに賛成した。


五月五日、水曜日。

「果歩、ショッピングの時みたいに迷子にならんよう、うちと手つなごう」

 竹乃は手を差し出す。

「たけちゃん、そこまでしてくれなくても私大丈夫だよ」

 果歩は自信満々に言い張った。

「そうかな? はぐれても知らんよ」

 竹乃はにやりと微笑む。

大型連休最終日の今日、四人は大阪府枚方市内にある、とある遊園地にやって来た。

果歩と光子は、係りの人に年齢確認されることもなく、小学生料金であっさり入園することが出来てしまった。

(いいのかな?)

 光子は多少の罪悪感を持つ。

「タケノン、やっぱ遊園地といったら、まずはあれに乗らんとあかんよね?」

「そりゃそうやろ」

 栞と竹乃は上の方を眺めた。

「えっ!?」

「栞ちゃん、ちょっとそれは……」

 果歩と光子も首を上に向ける。

それは、木製コースターエルフと呼ばれるジェットコースターだった。

「わっ、私、ジェットコースターには一度も乗ったことないけど……」

「そんじゃいい機会じゃん。未知との遭遇しようぜカホミン!」

「でも、見るからに怖そうだし、乗りたくないよ」

「そんなことないない。カホミンも一一〇センチの身長制限は余裕っしょ」

「そっ、そうだけど……」

「カホミン、物は試しやって」

四人は乗車待ちの列に並ぶ。一時間以上待ち、ようやく乗れることに。

「よっしゃ! 運よく一番前とれた」

「光子が待機人数分析してくれたおかげやな。ありがとう光子」

 栞と竹乃は、嬉しさのあまりガッツポーズをした。

「いえいえ。まさかうまくいくとは思わなかったよ」

「私、全然嬉しくないな」

 一方で光子と果歩は暗い表情。

「ワタシ、栞ちゃんのお隣がいいな」

 光子は栞の背中にしがみ付く。

「私も、たけちゃんの隣がいい!」

 果歩も竹乃の右手をがっちりつかむ。

「そんじゃカホミン、一番前乗るか? ワタシ、席譲ってあげるよ」

「私、二列目でたけちゃんの隣が……」

「まあまあカホミン、遠慮せんと」

「ありがとな、栞。果歩、こっちにおいで」

 竹乃はつかんでいた果歩の腕をグイッと引っ張り最前列左側の席に座らせた。

「あーん。怖いよう」

しかしもう引き返すことは出来ない。

〈発車いたします〉

この合図で、ジェットコースターはカタン、カタンとゆっくり動き出す。

「わたし、この速くなるまでの時間が一番怖いの」

 光子は周りの風景を見ないよう、目を閉じていた。

 ジェットコースターは坂道を登り切り、最高地点に達した直後、

「いやあああああっん! たけちゃあああああああん!」

「きゃあああああああーっ! 重力加速度gがあああああああっ、位置エネルギーが運動エネルギーにいいいいいいい」

 急落下。と同時に、果歩と光子はかわいい叫び声を上げる。もちろん楽しんでいるからではない。恐怖心を強く感じていたのだ。宙返りした際は、声すらも出なくなっていた。

ジェットコースターから降りた直後、

「あ~、めっちゃ気持ちよかった」

「無重力体験、最高! 宇宙飛行士気分が味わえたよ」

 竹乃と栞は幸せいっぱいな表情をしていた。

「光子って物理大好きっ子なのに、これは苦手なんやね。問題文に出てくるやろ? 位置エネルギーとか回転運動のとこで」

「りっ、理論と実践は全く違うから。これとか、バイキングの振り子運動については、実体験はしたくないの」

「こっ、怖かったーっ。二度と乗りたくない」

 光子と果歩の青ざめた表情は、降りてからも五分ほど続いていた。栞は付き合ってくれたお詫びとして、この二人にソフトクリームをおごってあげた。

「次は、お化け屋敷行こうぜ!」

「しーちゃん、私、絶対入らない!」

 果歩は栞の提案に即反対。

「そんじゃカホミンは外で待っとくか?」

「それも嫌。迷子に間違われちゃいそう」

「確かにそやね」

 栞はすぐに納得した。

「果歩、うちが隣についあげるから安心して~な」

「嫌だ嫌だ。別のとこ行こう」

「果歩、中学生になったらお化け屋敷を克服したいなって言ってなかったっけ?」

 竹乃はにっこり微笑みかける。

「あっ……」

 果歩は、春休みの宿題として出されていた課題作文『中学入学後の目標について』に、そういった主旨のことを書いていた。今思い出したのだ。

「さあ果歩、レッツトライ!」

「いやーん」

 竹乃は果歩の有無を言わさず手を引いて連れていく。

「カホミン、ここのお化け屋敷は全然怖くないんよ。初心者向けでホラーというよりむしろファンタジックな雰囲気なんよ」

「そっ、そうなの?」

 栞は果歩を口説いた。果歩は少しホッとする。入口では、一つ目小僧やろくろ首などがお出迎えしてくれていた。利用料金を支払って、いよいよ建物の中へ。

 ここではヘッドホンを装着し、乗り物に乗って進むライド型になっていた。

「きゃあああああああっ! たっ、たけちゃあああああっん」

 果歩はお化けもびっくりするような大声で叫んだ。果歩の目の前に、血まみれの女幽霊が現れたのだ。 

「よちよち果歩。うちに引っ付いてたら大丈夫やって」

 薄暗いここでは、果歩は竹乃の手をしっかり握っていた。のちに背中にしがみ付いた。

「たけちゃん、出口まだなの?」

「あわてない、あわてない。果歩、服伸びちゃうからあんまり引っ張らんといてーな」

「カホミンってほんま怖がりなんやな」

「果歩ちゃんの仕草、とってもかわいい」

 栞と光子はにこにこ微笑みながら眺める。

「わっ、私、お化けとか大嫌いで、今でも学校のおトイレの個室は怖いなぁって思うの。だって花子さんが出て来そうなんだもん」

「カホミンは小学校時代によく聞かされる噂話のトラウマ、まだ引き摺っとんやね。花子さんの代わりにア○ゴさんが出たらおもろいよな」

「それも別の意味で怖い。みっ、みっちゃんは、お化け屋敷は怖くないの?」

果歩は今にも泣き出しそうになりながら光子に質問する。

「うん。だって全てニセモノだと分かっているから。幽霊なんてもの、この世に存在するわけはないよ。ここにいる幽霊の正体は全てコンピュータグラッフィックスなどを駆使して作られたものだもの」

 と言いつつも、プルプル震えながら栞の手をしっかり握っていた。

「光子、そりゃ紛れもない事実やけど、雰囲気を楽しまな損やって」

 竹乃は笑いながら向かってつぶやく。

それから四分足らずで一周して来た。四人は乗り物から降りる。

「なーんだ。もう終わりなのか。もうちょいワタシたち怖がらせて欲しかったよね」

「かなり短かったよな」

 栞と竹乃はやや不満げな様子。

「やっ、やっと出れたぁ。ものすごーく長かったぁ」

果歩は安堵の表情を浮かべる。彼女にとっては、体感的に一時間以上にも感じられたようだ。

「こっ、今度は、私が行くとこ決めるね」

 栞と竹乃が大好きなアトラクションは、果歩にとっては恐ろしいものばかり。次こそは自分の大好きなアトラクションを楽しみたいと強く感じていた。

 向かった先は、ストロベリーカップだった。

「よぉーし、いっぱい回すよ」

 栞は中央付近に設置されているハンドルに手をかけ、力いっぱい回してみた。

「しっ、しーちゃん、回し過ぎだって。私、外に飛ばされそう」

「栞ちゃん、遠心力効かせ過ぎだよ」

「そうか? まだまだもっと速く出来るけどな。ワタシは、まだ物足りないよ」

「うちも平気なんやけど、果歩と光子が限界みたいやから、もうやめてあげてな」

 竹乃は、気分がハイになっている栞を言い聞かせた。

 下りた後、

「わっ、私、まだ目が回ってるよ」

「わたしも。地面がゆらゆらしてる」

「カホミン、ミツリン、ほんますまんなぁ」

栞は二人にきちんと謝っておいた。

四人はそのあとメリーゴーランドなど遊園地の定番スポットを巡って、最後の締めくくりとしてスカイウォーカーという巨大観覧車に乗ることに。最高地点では地上からの高さが八〇メートルにまで達する、この遊園地一番の目玉アトラクションだ。

「わーい。いい眺め」

「絵になるな」

 果歩と竹乃は大はしゃぎで窓から下を見下ろす。

「夕焼けとってもきれいでしょう? 等速円運動のお勉強にもなるし、観覧車って素敵」

光子が一番行きたがっていたアトラクションでもあった。

「……」

栞の顔は、やや青ざめていた。

「あれ? どうしたの? しーちゃん」

「乗り物酔いでもしたんか栞?」

果歩と竹乃は心配そうに尋ねた。

「ワッ、ワタシさ、高い所でゆっくり動く系の乗り物はものすごい苦手なんよ」

 栞は唇を震わせながら答えた。

「それはまた意外やな。ジェットコースター好きで観覧車苦手やなんて。逆パターンの子はよく聞くけど」

「栞ちゃんはね、どういうわけか遊園地のアトラクションでは観覧車だけが苦手みたいなの。わたし、栞ちゃんにジェットコースターのお返しが出来てよかった」

 光子はにんまり微笑んだ。

「しーちゃんにも苦手なものがあったんだね? 観覧車はのんびりしてて、乗り心地いいのに」

「まっ、まあね。ワタシ、のんびりした乗り物なら手漕ぎボートの方がええよ」

栞の新たな一面が見ることが出来た果歩は、とても嬉しそうだった。


    ☆


その日の夜、四人みんなで竹乃宅の露天風呂で菖蒲湯を楽しんだのだった。

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