第21話


私は、さっきの千代姉ちゃんの言葉が忘れられなかった。。。


『怖がるな!負けるな!自分に!』


怖がるな?負けるな?自分に?何が分かるのよ…私の…なにを…。。。


私の中の何かが音を立てて壊れた。


次の日夜、事件は起きた。。。


いつもの、父親の暴力が始まる。私は、凉音を押し入れの中に、隠れさせたが、すぐに出てきてしまい、彼は父親の、ターゲットになってしまった。。。


馬乗りになって殴られている凉音が、私の目に飛び込んできた。


「やめて!!!!」


私は、死にものぐるいで父親に飛び付いた。しかし、すぐに突き飛ばされてテーブルの角に頭を、ぶつけた。


それからの記憶はない。。。



「す、ず、…すずっっっっ!!!!」


「ち、千代姉ちゃん?な、ん…で?」


朦朧とした意識の中、千代姉ちゃんの優しい声が私を呼んでいた。。。


ポタポタと、私の頬に当たる千代姉ちゃん涙は、とても暖かかった。


でも、なんで?ここにいるの?と、私は、問いたかったが、声が出なかった。


「もう、大丈夫だからね」


「ち、千代姉ちゃん…す、すずねは?」


鈍痛の中、目の前を見ると、肩を痛めたのか、蹲っていた父親と、見覚えのない高身長の茶髪の、男の人。。。


「凉音くんは、大丈夫!すぐにあのおじちゃんが、助けてくれたから!!」


「酷いわぁ、ちぃちゃんたら。おじちゃんは、ないやろ。まだ、僕二十六歳やで?」


「ハイハイ、ありがとうございます」


良いから、救急車呼べと。おじちゃんに、頼んだ千代姉ちゃん。。。


よかった…凉音は、無事なんだ…よかった…。


そう、思うと安心したのか涙が流れて来た。。。


「千代姉ちゃん…」


「なぁに?」


「…あり、が、と、う」


千代姉ちゃんの笑顔は、お日様みたいだった。。。


私は、その後の記憶がまたない。。。



次に目が覚めると、そこには私の知らない白い天井だった。。。


ピッピッピ。と、鳴る機械音。


ツーン。と、鼻につく薬品の香り。


右を向くと、椅子に座り壁に寄りかかるおじちゃんと、私の手を握って離さない千代姉ちゃんが、ベッドの端で眠っていた。


左を向くと、凉音の姿があった。彼も、私と同じで、身体中に管がついていて、酸素マスクで、呼吸をしている。


私は、彼に手を伸ばす。すると、凉音より先に千代姉ちゃんが、目を覚ました。


「すずっ?!!すずっっっっ!?」


「千代姉ちゃん?」


「店長ぉぉぉっ!!」


「ふぇあっ!?羊の群れでジンギスカンッ!!」


「どんな夢見てるの!?すずが、目を覚ましたから、先生呼んできてッ!!!」


「わ、分かりましたぁぁ!!!」


おじちゃんは、千代姉ちゃんの命令にビシッと、敬礼してから廊下を猛スピードで走り去っていった。


「廊下は、走らないで下さいッ!!!」


看護師さんの声が響き渡る。


「あの人がね、すずと凉音くんを助けてくれたのよ」


「え?あ!お父さんッ!!お父さんは?!」


私の問に、千代姉ちゃんの顔色は一気に曇った。。。


「すず…良く聞いてね?お父さんは、亡くなられたの…」


「え?なんで?」


「遥さん…さっきのお兄ちゃんが、押さえつけてたんだけど、警察が来る直前に台所に合った果物ナイフで、首を切って…亡くなられたの…」


「待って…待って…なんで??なんで…誰が、警察を呼んだの??」


「私」


私は、腹の底からの怒りが湧き上がり、気が付くと千代姉ちゃんの頬を殴っていた。。。


「なんで、そんな勝手なことするのよ!!!良かったのに、あのままの生活で良かったのッ」


ーパチンっ


頬に鈍い痛みが、走った。千代姉ちゃんに頬を叩かれたのだと、認識するまでに少しだけ時間が掛かった。


千代姉ちゃんは、涙を流しながら私の肩を持ち口を開いた。


「ホントにそう思うの?私のことは、どう思おうが、どうでもいい!!ますずが、元気に生きてくれてないと嫌なの!あのままだったら、頭の悪い私でも分かるわ!お願い…自分を大切にして」


千代姉ちゃんの、香りが体温が暖かった。


そう、まるでお日様みたいだった。

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