第20話


私の知っている世界は、天井の白だった。


父親に、何度も何度も殴られて蹴られて私は、育った。


~迷涼の過去編・18歳~


「兎菓子さんのお母様、精神病で自ら命をたったみたいよ」


「可哀想に…」


公園で井戸端会議の、話題にされるのは日常茶飯事で。。。


横目で、可哀想可哀想と言うだけで助けてくれない『大人』たち。。。


「あの女と同じ顔しやがって!!!」


家に帰ると、私を押し倒し首を絞める父親という名前の『大人』。。。


私は、ただ弟の『凉音』を守るために耐えるしか無かった。私が、反抗してしまったらきっとこの人は、凉音に手を出すだろうから。


こんな『大人』でも、私たちのことは、ちゃんと育ててはいてくれてる。。。


「今夜は、肉じゃがを食わせろ」


「はい、お父さん」


凉音を連れて、買い物に行こうとしたが、彼は、宿題があるからと、私と一緒に買い物には、ついて来なかった。


それが、間違いだった。。。


あんなことになるとは、私もその時は思っていなかった。


私の家から少しだけ離れた場所に、小さな空き地があった。私は、よくココで今は亡き母と、凉音と、夜空を見上げて星の数を数えたモノだ。。。


その空き地には、使われなくなった錆びた電車の一車両が、ポツンと置いてあった。


私は、その電車の中に入り座席に腰をかけた。このまま、電車が動いて何処か遠くに連れて行ってくれないかと、母親のいる場所に連れて行ってはくれないかと…。。。


「すず??」


と、聞き覚えのある声が彼女の頭上から落ちてきた。


「千代姉ちゃん」


「どったの?こんな夜遅くに、一人で危ないよ?」


当時22歳の千代は、家から離れた場所にある小さな呉服店のアルバイトをしていた。


私とは、家が近所で小さい頃から仲が良く、まるで妹のように接してくれている。


他の『大人』とは、違う気がしていた。


「え!?今何時?」


「六時三十分だけど?」


「え!!?急いで帰らないと!!お父さんに怒られちゃう!」


私が、千代姉ちゃんの横を通ろうとした時、洋服の袖を掴まれた。咄嗟に、振り向き、首を、傾げる。


「待ってすず…アンタ、何月だと思ってるの?」


今は、八月だ。


八月なのに、長袖を着ているのが気になったようで、手を離してくれない。


「い、いいでしょ?!私の勝手なんだから!」


千代姉ちゃんは、マジマジと私の顔を見つめる。


「その頬どうしたの?」


「なんでもないよ」


「何でもなくなんかない!ホラ、良く見せて!」


「私たちのこと救えないクセに、関わらないでよ」


「すず…」


私は、何も言えずにその場を去った。涙が溢れた。


大好きな千代姉ちゃんに、酷いコトを言ってしまったと言う悔しさと、悲しみが入り交じり私の中でとぐろを巻いて、涙として溢れたのかも知らない。


私に、まだそんな感情があるとは少しだけ驚いた。。。


家に着くと、また聞き覚えのある声が背後から、私の背中を刺す。


「すずっっっっ!!」


私は、思わず振り返ると肩で息をしている千代姉ちゃんの姿が、そこには合った。。。


千代姉ちゃんは、私に言った。


「大人は、アンタが思っているほど酷いモノじゃないよ!アンタ次第で、どうにでもなる!!!怖がるな!負けるな!自分にッ!!」


私は、そんな千代姉ちゃんを放って、家に帰った。。。。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る